「振込先を間違えた」と白々しく語る”地面師”…問い詰められ逃げ場をなくした末に取った「驚きの態度」
新幹線で誰かと連絡
津波本人が思い起こす。 「会社には銀行の担当者がお見えになっていました。松田らはずっと間違えて振り込んだと言い張っていました。銀行の方によれば、もし本当に間違いなら“組み戻し”という作業をして、いったん元に戻すこともできるという話でしたので、念のためその作業をしたのですが……」 津波にとって5億円の詐欺被害は死活問題だ。28日、東京に戻り松田を問い詰めているとき、ふと新幹線での松田の様子が思い浮かんだという。松田は車中でスマホをいじりながら、誰かとメールでやり取りをしていた。 「そこで、『松田さん、疑わしいことがないんだったら、あなたのその携帯の着信履歴を見せてください』と迫ったのです。彼は最初拒んでいたんだけど、しぶしぶ見せてくれました。松田の電話には、北田の電話番号が北川という偽名で入っていました」 津波がこう続ける。 「松田は北田とLINEでもやり取りをしていました。そこでは、北田からの『もう少し耐えろ』とか、『ギリギリまで頑張れ』みたいなことがメッセージとして残っていました。松田のほうからは『弁護士を紹介してください』という発信もありました」
確実に騙された
繰り返すまでもなく、松田が北田と連絡を取り合っていたのは、前日の27日に東京から新幹線で大阪に向かったおよそ2時間40分のことだ。津波は少しでも松田から情報を引き出そうと必死だった。 「LINEのメッセージに弁護士を紹介してくれとあるのはどうしてか?なぜ弁護士に相談する必要があるのですか。これはどういう意味ですか」 一気にそうまくし立てた。 「すると、松田はもごもご誤魔化していました。けど、何か言わなければいけないと思ったのでしょう。『自分は結婚詐欺被害に遭っているので相談しようとしてるんです』なんて、とってつけたような辻褄の合わない言い訳をしていました」(津波) 騙されたことを確信した津波は、28日中に松田を町田警察署に突き出した。不安だったのだろうか。なぜか、そのあと北田もみずから町田署に出頭した。 2重取引を駆使した地面師詐欺は、こうして町田署による捜査が始まったかに思えた。だが、名うての地面師、北川明こと北田文明をはじめ、配下の「東亜エージェンシー」社長松田隆文や同社の大塚洋、「プリエ」社長の茅島秀人こと熊谷秀人ら4人を町田署が正式に逮捕したのは、犯行日から2年半も経過した17年12月4日から5日にかけてのことだ。北田の後ろで糸を引いている内田マイクも、最終的に取り逃がしてしまう。 そこには、捜査の大きな問題があった。 『明らかな詐欺にも関わらず、“地面師”をわずか2時間で釈放…情報操作に乗せられた警察の「杜撰で荒唐無稽な」捜査』へ続く
森 功(ジャーナリスト)