「振込先を間違えた」と白々しく語る”地面師”…問い詰められ逃げ場をなくした末に取った「驚きの態度」
Netflixドラマで話題に火が点き、もはや国民的関心事となっている「地面師」。あの人気番組「金スマ(金曜日のスマイルたちへ)」や「アンビリ(奇跡体験!アンビリバボー)」でも地面師特集が放映され、講談社文庫『地面師』の著者である森功氏がゲスト出演した。同書はすべて事実を書いたノンフィクションであり、ネトフリドラマの主要な参考文献となっている。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションであるドラマよりも、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むほうが参考になるだろう。 地面師たちはどうやって不動産を騙し取るのか。森功著『地面師』より、抜粋してお届けしよう。 『地面師』連載第61回 『巧妙な『地面師詐欺』も“ある書類”を読めば一発で見抜ける!…プロの司法書士でさえ見落としがちな“ある書類”とは』より続く
消えた5億円
津波はその日の夕方になって、御茶ノ水にいた松田を捕まえた。それが午後7時ごろだ。こう振り返った。 「うちの司法書士の先生といっしょに松田と向き合うと、彼はタバコを吸いながら、足を組んで余裕を見せていました。本当に振込先を間違えちゃったとしたら慌てふためいているはずでしょう。なのに、いかにも落ち着いていて普通にしているではないですか」 ここまで来ると、もはや相手を信用できるわけがない。 「一体どうなっているんだ」 津波は思わず声を荒らげた。 「このとき振込伝票の控えを見せてもらって、すべてがわかったのです。こちらの5億円は、北田や松田によって4分割され、まったく関係のないところに渡っていたことが……」 消えた5億円の売買代金について、津波が資料を手にして経過を確かめながら、改めて冷静に分析した。
架空の会社に3億2500万円振込
「一つは北田が現金で3000万円を引き出して持ち帰り、残り4億7000万円のうち、セキュファンドという会社の口座に3億2500万円、東亜に1億円、あとセブンシーという会社にも4000万円が振り込まれていました」 東亜社の松田が4分割して送金した売買代金のうち、最も大口の振込先が大阪府岸和田市に登記されているペーパー会社「セキュファンド」だった。津波がこう説明を加えてくれた。 「松田に『セキュファンドという会社を知ってるのか』って聞いたら、『そこには電話で事情を話し、振り込んだ金を戻すことを確認したから大丈夫です』って言うんです。もちろんそれも嘘だった。ネットでその会社を調べても、ファックス番号すら出てこないのです」 業を煮やした津波は松田を連れ、その足でセキュファンドのある大阪へ向かった。 津波たちを乗せたのぞみの大阪着は深夜になった。一泊した翌朝、津波は真っ先に3億円あまりが振り込まれていたM銀行の当該支店に向かい、事情を銀行に説明して中身を確かめた。だが、すでにその3億は銀行口座から引き出され、残高は空になっていた。そこでやむなくセキュファンドのある住所を訪ねた。だが、そこは会社の看板すらない。誰もいないマンションの一室だった。 「もぬけの殻とはこのことです。会社の看板がないどころか、驚いたことにそこはただのワンルームマンションだった。それで東京に取って返し、僕の会社で善後策を練ることにしたのです」