相模原市の“骨抜き”人権尊重条例が可決・成立 差別と闘う義務から逃亡
「恥を知れ!」の怒号も飛び交う中、相模原市人権尊重のまちづくり条例は3月19日、市議会の賛成多数で可決・成立した。傍聴席を埋めた市民の憤怒は、差別をなくすための画期的な答申を骨抜きにした本村賢太郎市長、唯々諾々と従う市議たちへと向けられた。車いすの重度障害者たちは声にならない声を振り絞り、悔し涙を流す在日コリアン女性もいた。全国の範となることを期待された「相模原モデル」は無残、制定過程を含めて見習ってはいけない見本になり果てた。
「市民の代表である議会にも理解いただいた。72万市民にふさわしい条例だ」。そう胸を張った本村市長は不遜な態度を隠そうともしなくなっていた。前日、答申をまとめた市人権施策審議会の会長を含む大学教授2人が辞意を表明していた。答申が無視された上、理由を尋ねた公開質問状に市がまともに回答しなかったからだった。差別を本気でなくす実効性のある条例を求める声に耳をふさぐ市の態度は最後まで徹底していた。 有識者らで作る審議会が3年半の熟議を重ねた答申はマイノリティの被差別当事者や人権団体などから高く評価された。外国ルーツの人だけでなく障害者や性的マイノリティ、被差別部落出身者へのヘイトスピーチを罰則で規制する。独立性の高い人権委員会を設置し、差別の被害者を救済していく。これらの先進的な内容が実現すれば、全国初のヘイトスピーチ罰則条例を定めた川崎市に続くだけでなく、救済対象が拡大され、人権を守る取り組みが大きく前進するはずだった。 何より重度障害者19人が虐殺されるという戦後最悪のヘイトクライムまで起きた相模原市には十分な立法事実があり、責任があるはずだった。本村市長はしかし、自ら諮問した答申をあえて無視した。川崎市に引けを取らない条例を作るとぶち上げたのは自分だったが「拳を高く振り上げすぎた」と恥も外聞もなく言った。外部の識者と顧問弁護士にヒアリングし、否定的な意見に飛びついた。市役所前でレイシストが毎週続けたマイノリティへの攻撃をヘイトスピーチではないと言い張った。自分たちに都合のいい結果を得ようとするかのような市民意識調査も行なわれた。「答申は最大限尊重した」と虚偽の答弁を繰り返し、審議会委員を逆なでした。「こんな条例ならないほうがまし」。答申無視に始まるプロセスが前代未聞なら、批判もまた聞いたことのない痛烈なものとなった。