サラリーマンの給与の“地域格差”は「官製」だった? 現役裁判官が“国”を訴える異例の訴訟を提起「すべての国民の未来のために戦う」
「すべての勤労者の問題」として問いたい
訴状では、現行の地域手当の定めが「全体として不可分一体をなすものとして、違憲・違法である」とする。その意図について、竹内判事は述べた。 竹内判事:「本件は私だけでなく国民全体の問題だと考えている。 もし、私だけの裁判にしてしまうと、『大阪16%』『名古屋15%』『津6%』という数値のみを取り出し、それが妥当かどうかという点だけの判断になってしまう。それでは狭すぎる。 地域手当の定め全体として合理性があるのか、憲法に照らして正当化できるものなのか、ということを問いたい」 また、是正の方法についても、一つの案を提示した。 竹内判事:「仮に今の地域手当の水準が総体・総額として正しいとするならば、その平均値をとるという方法が合理的だと考えられる。 そして、その平均値に近づけるため『減給』にならないように、徐々に経過措置を設けて激変緩和措置をとりながら、全国一律の公務員の賃金に是正していく。それが正しいやり方、あるべき方法だと思われる」
岡口基一元判事も「辛口エール」
名古屋での会見が中継された東京会場には、弾劾裁判で裁判官を罷免された元仙台高裁判事の岡口基一氏も駆け付け、発言を行った。竹内判事は岡口氏の弾劾裁判の際に弁護側証人として出廷し証言している。 岡口氏は、現行の司法制度下で判事補などの新人法曹は多額の借金を抱えていることを指摘した。 現行制度下で法曹資格を得るには基本的に多額の学費がかかるロースクールで学ばざるを得ず、多くの人が奨学金の返済をしなければならない。また、特に2011年~2017年に司法修習を受けた人は無給であったため国から約300万円の借金を負っている。 岡口氏:「いま法曹になるには非常にお金がかかる。新任判事補の中には判事補になったときに800万円の借金を抱えている人もいる。そういう状況にあるということは国民の皆さんはご存じないのではないか。 また、今年3月に判事補が2桁も依願退官している。我々が新人の頃よりも、東京の同期と給与が20%も違うということによるモティベーションの低下は大きい。 かなり切実だ。地方回りの男性裁判官は奥さんも働けない。若い裁判官は給与も低く、税金や社会保険料の負担も増大しており、生活が苦しいなか借金を返している。そういう状況で、若い裁判官はどんどん辞めている。 若い声を吸い上げていくことが大切だ」 竹内判事は記者会見の最後を次の発言で締めくくった。 竹内判事:「『ぜひ弁護してあげたい』という事件が生じたら、裁判官を退官して弁護士に戻ってまた頑張ろうと思っていた。図らずも、まさか自分が原告になるとは思っていなかった。 探し求めていたライフワークが、ようやくこの『差別』のおかげで見つかったということで、実は少し喜んでいる。 これだけの皆さんに弁護していただいて、応援していただいて幸せ者だと思う。 私も残りの人生をかけて、公共訴訟という形で、地域手当の改正と裁判所の独立、そしてひいては地方で冷遇されている皆さんをはじめとする、すべての国民の未来のために戦うことをお誓いしたいと思う」
弁護士JP編集部
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