サラリーマンの給与の“地域格差”は「官製」だった? 現役裁判官が“国”を訴える異例の訴訟を提起「すべての国民の未来のために戦う」
看護師の「人手不足」に深刻な影響も
竹内判事は本件訴訟の提訴に先立ち、4月6日に提訴予告の記者会見を行った。その後、様々な反響が寄せられ、それらによって、地域手当の格差が、裁判官のみならず国家公務員や地方公務員にも重大な影響をもたらしていたことを知ったという。 竹内判事:「国家公務員のレベルでは、埼玉県の自衛隊員の方から、地域手当のせいで、隣の基地に勤務する隊員と比べて給与が10%超も低いという話をうかがった。 また、地域手当は国家公務員の問題だと思っていたが、地方公務員についても、国家公務員と連動して地域手当が設けられていることを知った。 私の出身地の愛知県蒲郡市に住む中学校の同級生からLINEをもらった。蒲郡市には地域手当がないせいで、市民病院の看護師さんが来てくれないんだと。 地方公務員の地域手当がなぜ定められているかというと、それを設けないといわゆる『ラスパイレス指数』が上がってしまい、財務省あたりから『おたくの自治体は裕福なんだね』といって地方交付税交付金が削られるということのようだ。 蒲郡市は地域手当がないので、近隣の看護師さんは、比較的近い豊田市(2級地・地域手当16%)などに流れていってしまうという。 私に悲痛な声を届けてくれた同級生は病院の患者さんの家族だった。涙が出た」
「同一労働・同一賃金」の問題と「地域間格差」
訴状では80条2項違反に加え、平等原則(憲法14条)違反の問題も主張されている。「同一労働同一賃金の原則」に反し、勤務地による不合理な差別にあたるという。 それに加え、国家公務員の地域手当の格差が、国家公務員のみならず、地方公務員、民間の労働者全般の給与・賃金水準の地域間格差にも重大な影響を及ぼしていると主張されている。 すなわち、まず、地方公務員の地域手当は、国家公務員の地域手当にほぼ連動し、看護・介護・保育等の「公定価格」などにも連動する。 そして、地方公務員の給与水準は、その地方の民間企業の賃金水準に大きな影響を及ぼし、ひいては、都道府県別の最低賃金にみられるように、現状の地域間の給与格差を生んでいるという。 竹内判事:「人事院は、民間賃金に準拠して国家公務員を定めたと説明している。 しかし、むしろ、国家公務員にこのような最大20%もの地域手当の差別を設けていることが、地方公務員にまで波及して、さらには地元の民間賃金の圧迫の原因になっているということ。 都道府県別の最低賃金の格差は最大20%超となっているが、全国一律の最低賃金の実現の妨げにすらなっていると思っている」 国家公務員の給与を決める「人事院勧告」においては「民間準拠」が重視されている。しかし、地域手当が全公務員、ひいては民間の労働者の給与水準に影響を及ぼし地域間格差を生んでいるとなると、地域間格差は作られた「官製」のものということになる。
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