「愛」を叫び、地元盛り上げる 「めおチュー」立ち上げた旅館の女将
三重県伊勢市二見町の夫婦岩に向かって夫婦が日ごろの感謝や愛を叫ぶ「夫婦(めおと)の町の中心で愛を叫ぶ」が11月17日に開催された。通称「めおチュー」は旅館「浜千代館」の女将(おかみ)、濱千代美治さん(60)があふれる行動力で立ち上げ、運営を続けてきた。今では有名観光スポットにちなんだイベントとして定着している。 【写真で見る】夫婦岩に向かって… 「めおチュー」とは? きっかけは2008年にテレビで見たニュースだった。キャベツの産地、群馬県嬬恋村で開かれた「キャベツ畑の中心で妻に愛を叫ぶ」、通称「キャベチュー」は、夫が「これからも仲良く過ごしたい!」など長年連れ添った妻に感謝などを叫ぶイベントだった。 夫婦それぞれの境遇からあふれる思いを言葉にする様子を見て感動すると、翌年9月には自らも参加した。老舗旅館の「跡取り」だった裕章さんと結婚する時、両親に反対されていたことを思い、「私は今、幸せです」と叫んだ。 同時に、夫婦岩が広く知られ「夫婦の町」を掲げる二見町でも開催したいと思い、行動に移した。裕章さんや地元の町おこしグループのメンバーに相談しながら、キャベチューを主催する日本愛妻家協会の伊勢支部を設立し、自ら事務局長に就任。キャベチュー参加からわずか2カ月後の09年11月22日の「いい夫婦の日」に第1回を開催した。 協会の本部スタッフからは「1組、2組でも叫ぶ人がいれば成功」と言われていた中で、18組の「叫びスト」が参加し、「大成功」(濱千代さん)に終わった。以来、コロナ禍でも参加者を減らすなど感染対策に配慮しながら中止することなく、今年で16回目を迎えた。 アイデアや行動力は「めおチュー」にとどまらない。1989年に裕章さんと結婚後は女将として「手腕」を発揮。BGMとしてロビーで流し始めたジャズは、今では流れていないと宿泊客から“クレーム”が出るほど、旅館の定番となった。「荷物にならない土産を持ち帰ってもらいたい」とジャズシンガーとして自らマイクを持ち、ロビーを会場に「女将のおもてなし」と銘打ったライブも行う。 活躍の場は広がり、今ではライブハウスのステージにも立つ。かつては「うちの嫁がまた何かをやり出した」と苦笑いしていた義父も周囲に「あれは嫁がやり出したんだ」と自慢していたのを知り、うれしかったと振り返る。 地元FM局でパーソナリティーを務めるなど、いくつもの「顔」を持ち、走り続けるのも、町おこしへの思いがあるからこそ。「もう一度訪ねてみたいと思っていただける、思い出になる町であってほしい」と自らが中心となって、地元愛を叫び続ける。【大竹禎之】 ◇濱千代美治(はまちよ・みはる)さん 1964年、愛知県江南市出身。小学生のころは歌手になりたいと思い、スカウトされるために丸暗記した洋楽やアニメソングを歌いながら歩いていたという。大学では日本画を専攻し、金彩友禅の工房に就職して職人を目指したこともあった。