三菱重工業のHR部門大改革 「HRから変わって、HRが変えていく」
「管理」主体の人事から「戦略」主体の人事へ。人的資本経営の重要性が叫ばれる中、人事部門に求められる役割が大きく変化しています。三菱重工業(MHI)も例にもれず、経営戦略・事業戦略と連動したHR戦略の立案と実践が求められていました。 HR戦略の真の実現を目指すには、社員よりも先に「HR部門の変革が必要ではないか」と考えた同社では、HR部門の大改革を推進。コンセプトは「HRから変わって HRが変えていく」「ONE HR for MHI Group」です。 この取り組みが評価され、「HRアワード2023」企業人事部門では入賞を果たしました。では具体的に、どのような改革が行われたのでしょうか。プロジェクトの背景や具体的な施策、成果などについて、同社HR改革推進室 企画グループの弘田和之さんと辻本剛史さんに聞きました。
HR戦略の実現には、HR部門の意識改革と基盤強化が先決
――三菱重工業では、HR部門の大改革「HRトランスフォーメーション・プロジェクト(HRX-PJ)」を推進されています。プロジェクト立ち上げの経緯をお聞かせいただけますか。 辻本:来年(2024年)は、当社が3ヵ年ごとに策定している全社中期事業計画のスタート年なのですが、人的資本経営などの流れを受けて、このタイミングから経営戦略や事業戦略にもとづいたHR戦略をしっかりと打ち立てていくことになりました。 HR戦略を実現するためにはまず、HR部門自体の変革が必要ではないか。そう考えて立ち上げたのが、HR部門の意識改革と基盤強化を目的とした「HRトランスフォーメーション・プロジェクト(HRX-PJ)」でした。 弘田:HR部門の改革の必要性を感じた理由の一つは、HRを取り巻く環境が大きく変化していることです。社会的にも人的資本開示やエンゲージメント向上、ダイバーシティ&インクルージョンなど、人事に期待される役割は高度化・複雑化していますよね。経営陣から求められるのは、経営戦略に連動したHR戦略。これまでのように管理主体ではなく、戦略主体への転換が必要になっています。 辻本:コロナ禍の影響で、リアルなコミュニケーションの機会が減ってしまったことも理由の一つです。当社のHR部門は本社のほか、全国15ヵ所の事業所にメンバーがいて、グループ会社への出向者なども含めると約500名が在籍しています。 規模が大きく、物理的な距離もある中、コロナ禍でさらに出張の機会なども減ってしまいました。システム負荷への配慮から、オンライン会議では顔出しをしないことが常態化しており、同じHR部門内でも顔と名前が一致しないケースも多かったんです。とくに役割が異なる本社HRと事業所HR間では、心の距離が広がっているのではないかという懸念がありました。 弘田:経営戦略や事業戦略に連動した高度な人事施策を実行していくには、社員の声を拾う事業所HRから、人事制度設計を担う本社HRへの情報共有がこれまで以上に重要です。本社HRと事業所HRが垣根なく、双方の心理的安全性が高まった状態で良いコミュケーションを取れるようにしたい。そんな思いから、今回のプロジェクトが始まりました。 ――具体的には、どのようにプロジェクトを立ち上げていったのでしょうか。 弘田:2022年4月に、人事の制度設計や通常のオペレーション業務を行う部署から切り離す形で、「HR改革推進室」が新設されました。HR全体の戦略を推進するための企画立案や組織開発を専任で行う部署です。 私はHR改革推進室の企画グループに所属しているのですが、当グループが「HRX-PJ」の事務局となって、ミッション・ビジョン・バリューを策定しました。 辻本:ミッションは「HRから変わって HRが変えていく」、ビジョンは「ONE HR for MHI Group」、バリューは「答申で終わらない 最後までやり切る」です。 HR部門とは従来、従業員を後方から支援する役割を担うことが多かったと思います。しかし変革期においては、私たちがまず動き、さまざまなことを試し、学びや手法を広めることで、全社に好影響を与えていく。そんな存在に変わっていかなければなりません。さらにその結果として、HR部門のメンバーにも「HR部門で働くことが楽しい」「ここなら成長できる」と実感してもらえる循環をつくりたいと考えました。 具体的には「マインド分科会」「HRイノベーションサイクル分科会」「コミュニケーション&DX分科会」にわけて、それぞれ2~5チームをつくり、手挙げ式でプロジェクトメンバーを募りました。また、ぜひ参加してほしいメンバーには、個別に声をかけました。現在はHR部門に所属する30~40名ほどが、プロジェクトメンバーとして活動しています。