『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と『ウォッチメン』が似過ぎていて怖い話
ポリティカル・コレクトネスの広がりにより、人種差別の悲劇が大衆文化の題材に。負の歴史を公のものとして語りなおす「パブリック・ヒストリー」の力とは──【小森真樹(武蔵大学人文学部准教授)】
「いい、いい色の肌をしているよ。何色って言うの?」 ――2023年公開の映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のなかでのレオナルド・ディカプリオの台詞だ。口説かれた裕福なアメリカ先住民の女性を演じるリリー・グラッドストーンは答える。「私の色よ。」 【写真特集】透明な存在にされたアフガニスタン女性たち ロバート・デ・ニーロらが出演しマーティン・スコセッシが監督した本作が描いたのは、百年ほど前のアメリカ合衆国オクラホマで実際に起こった事件である。 数十、数百とも目される死者を出した先住民連続不審死事件。石油産出によって超裕福になった先住民オセージ族コミュニティとそれに狡猾に"パラサイト"することで富を奪おうとする白人たち。 先住民社会と白人社会とのあいだの摩擦は、FBIの前身となる機関による捜査により「発見」されることになった。 映画の原作で、忘れ去られていたこの事件を丹念な取材によって掘り起こしたのが、ジャーナリストのデヴィッド・グランが2017年に出版したKillers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI (邦訳『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』 だ。) オセージはその土地で油田が発見されて石油会社からリースのロイヤルティを得ることができたが、オクラホマ州裁判所は表向き先住民の財産権を認めつつも、同時に彼らを「無能力者」認定をすることで、後見人のみが財産管理をできるという制度を狡猾に仕立てた。 当然のごとく多くの白人男性が先住民女性と結婚し後見人となることが常態化したが、1918~31年頃の同時期に先住民ばかりが原因不明の死を遂げることにもなった。なお、副題にある通り本書は映画以上に、FBIの前進組織がこの広域圏捜査から生まれた過程にも焦点を当てている。 私は映画以前にこの事件のことを知らなかったが、この映画の予告編を観てすぐに本書を読んだ。しかし読み進めながら思い出したのは別の作品、『ウォッチメン』のことだった。あまりにも『キラーズ』と似すぎているのだ。 アラン・ムーアによるスーパーヒーロー・コミックSFのダークな金字塔として知られる本作は2009年にも映画化されたが、ここで想起したのは2019年のドラマ版である。