現代人の「生きがいが見つからない」悩みに対する松下幸之助の答え
「万物の王者」も一人の力には限界がある...だから衆知を集めることが大事
幸之助は、「人間は万物の王者である」と訴える半面、個々の人間の知恵や知識には限界があると主張した。実際、自社の社員に対してもたびたび、小さな人知にとらわれることを戒めた。自分の能力を過信するのは危ないのだと。 しかし同時に、個々それぞれには必ず、何かしらの優れた一面が備わっていることも併せて強調した。人間の個々の特性はそれぞれ、宇宙の生成発展のために天から与えられたものだと見なし、そもそも無用な人間など存在するはずがないと考えたのである。ならば、人間の多様性を活かし、衆知を集めることで、生成発展を推進する大きな力が発揮されると訴えた。 よく幸之助は「人を大事にする経営者」と言われるが、それは雇用の保障や教育熱心といった次元にとどまるのではなく、以上のような人間観が根底にあることを強調しておきたい。 社員にとって会社は単に労働力を提供する場ではなく、自分の持ち味を発揮することで「生きがい」を見いだす場であるというのだ。だから会社側も、社員の能力が発揮できるように、適材適所に配置すべきだと強調した。人間本位の経営である。 『人間を考える』は当初、特段の大きな反響を呼んだわけではなかったが、徐々に読者が増え、刊行から50年たった現在、文庫版などを含めて発行部数は20万部を超えている。世界が暗い雰囲気に包まれている今だからこそ、あらためて本書を通じて、私たち人間の役割や使命を考えてみてはどうだろうか。
川上恒雄(PHP理念経営研究センター首席研究員)