【中川李枝子さん×宮﨑駿さん・対談】『いやいやえん』から生まれたアニメ「くじらとり」。すべては子どもから教わったこと
アニメ映画「くじらとり」を見てびっくりしました。あれから私は宮﨑さんに一目置いてるんです~中川さん
宮﨑 僕はこれを映像にするには、どうしたらいいんだろうって。 中川 でも、あの映画を見たとき、私、びっくりしたの! 本当にそのままでした! 保育園の子どもたちが「くじらとり」をして…。 宮﨑 そう言ってくれると嬉しいですね。 中川 びっくりしちゃったの! お母さんたちに見せたくなっちゃった。 村上 「くじらとり」は、宮﨑さんがジブリ美術館で短編映画にされたんですよね。 中川 保育園の…本当にあの通りの海になったんです。あれで私は、びっくりしちゃって! 宮﨑さんに一目置いてるんです! 宮﨑 今でも順番で上映していますけどね。一応映画では、なぜ保育園の中が海になるのかって、そこまでは説明しないけれど、子どもが遊んでて、船が…積み木でつくった船がちょっとずれると、そこから水が漏る。すると、本当に漏ってくるっていうね。あ、こういうふうにやっていけばいいんだって、それが入り口。 中川 本当にあの通りになったから。 宮﨑 中川さん、その映画見てですね、お母さんたちが迎えに来て海になってたらびっくりするでしょって。 中川 本当にそう思った。 宮﨑 中川さんがつくった話なのに! 中川 私の手からは離れてますけどね。 宮﨑 本当に幸せでした。もっとよくできるんだろうと思うんですけど、僕はあれが限界かなあと。これならギリギリ中川さんの原作を損ねないで、子どもたちが読んでも、それから映像を見てもね、頭の中でぶつからない。そういうものができたと思って。 まあ、なんでも映像にするって、間違いなんですよね。お話はお話として読んで、それでワクワクしたりするのがいいです。でも、やっぱりちょっと挑んでみたかったんですよね。「くじらとり」は、これこそファンタジーだと思って。
叱られて物置に入れられている、主人公のしげるの絵が大好きで!~宮﨑さん
村上 宮﨑さんが『いやいやえん』を読んで、これを映像化したいっていうふうに思われたのはなぜなんでしょうか。自分で物語を動かしてみたかった? 宮﨑 いや、そんな立派なものなんかじゃない。そのときは、まだアニメーターになってませんからね。学生ですから。でも、これを映画にするとしたら、アニメーションにするとしたらですね、どうやってやるんだろうっていうのは思いましたね。 やっぱり中川さんの「くじらとり」が最高なんです。実は妹さん(※中川さんの実妹、大村百合子さん)の描いた挿絵もね、これもまた本当にいいんですよ。特に叱られて物置に入れられている、主人公のしげるの絵が、僕、大好きで! この保育園(※スタジオジブリ保育園「3匹の熊の家」。企業保育所のため、一般の方の入園は不可)で叱られて物置に入れられている子はいないんですけどね。中川さんたちは入れてたんですか? 中川 あのね、別に物置っていうほどの部屋じゃないんですけどね。いろんなお道具を入れたりする物置っぽいお部屋がひとつあって。節穴だらけで、節穴からホールがみえるんですけどね。一応「そこに入って考えなさい」って。そうすると「イヤだイヤだ」って言うの、みんな。 ところがあとで大人になってうちに来たときは白状したんですけど、「先生、実はね。あれ入るの嬉しかったんだ」って。「でも嬉しがっちゃ先生に悪いから、イヤだっていうふりしたんだ」って。 宮﨑 ははははは。 中川 いや、悪かったな~って。 宮﨑 でも、保育園に子どもたちが絶対に行かない場所っていうのがあるんですよ。急な階段のところで…図書館の地下に自家発電機を置いてるんですよ。もしものときに電気がひとつ灯るようにって置いてあるんですけど、そこに行く階段が急なんですよね。表からは入れるようにドアがついてるんですけど、子どもたちは絶対に入らない。 かくれんぼするときに物置の裏にはいれるようになるのは、大変な成果っていうか。まあ、みんな物置の後ろにはいって一網打尽に捕まるんですけどね(笑)。物置の後ろをまわってこれるっていうのは、子どもたちにとってはすごい達成なんですよ。達成だったんですけど、その怪しい階段だけは誰も下りないですよね。いまだに下りない。 村上 それは下りちゃダメって言ってるからですか? 宮﨑 言ってないですよ。気配がイヤなんでしょうね。ものすごく敏感です、子どもって。本当に面白いです。 中川 子どもらしい子どもばかりで、いいですね~。