『カラーパープル』の舞台は南北戦争から50年後。1985年版は、スピルバーグが無冠に終わった、まさかの作品
1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者) 【漫画】これが嫁入り?驚愕した場面 * * * * * * * ◆ソフィアとシュグの格好良さが半端ない 「あんたハーポに余計なこと言ったね?」 ソフィアがセリーに平手をかまし、そしていう。 「私は殴られるままでなんていない。覚えておきな。今度ハーポが私を殴ったら私は、ハーポを殺す!!」 私は、映画『カラーパープル』に出てくるソフィアが大好きだ。1985年のスピルバーグ版もいいが、2023年のブリッツ・バザウーレ監督、スピルバーグ&クインシー・ジョーンズ製作のミュージカル映画、『カラーパープル』のソフィアは最高である! ソフィアだけではない、主人公セリーの夫「ミスター」ことアルバートの元恋人、シュグの魅力も半端ない。 この物語は、男に支配されることに慣れ、人生を諦めていた黒人女性の主人公・セリーが、自分と全く違う「戦う女たち」に出会うことで、「抵抗し、敬意を勝ち取ること」に目覚めていく映画。そのセリーのメンター役を果たすのがソフィアとシュグだが、その格好良さが半端ない!
◆「右に出るものなし」と断言したい 私は今上映中のミュージカル版を見た後に、1985年のスピルバーグ版を見た。アカデミー賞10部門にノミネートされながら無冠に終わった、まさかのスピルバーグ作品。 確かに、力が入りすぎたのかスピルバーグらしい迫力に欠ける。しかし無冠だったからこそ彼の中で、この作品のリメイクとリベンジが、大きな課題となったに違いない。 その後30年近い歳月を経て出来上がったこのミュージカル版『カラーパープル』は、その迫力、感動、俳優たちの存在感など全てにおいて「右に出るものなし」と断言したい。 この作品は僅か100年前のアメリカを舞台にしている。主人公のセリーはたった14歳で二度目の出産をし、翌日には父親によって子どもを取り上げられ、どこかに売られてしまう。 悲嘆にくれるセリーの心の拠り所は、妹ネティだけ。しかしセリーはまもなく、まるで「牛1匹をくれてやる」という感じで、父親に結婚を命じられ、「ミスター」と呼ばれる男に嫁ぐ。 その嫁入りのシーンを見るだけで泣きそうだ。ドレスも式もなく、馬に乗った夫の後を徒歩で行く嫁入り。その生活は文字通り「セックス付きの家政婦」。 あまりにも悲惨なのだが、それを淡々と受け入れていくセリーの態度にも驚かされる。最新版では説明がなかったが、85年版では「2回とも父親によって妊娠させられていた」ことが明らかだ。受け入れ難い筋立てだが、それで抵抗もせず、精神を病む訳でもないセリーは強いのか、教養の欠落ゆえに怒りの感覚が鈍いのか。
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