J1昇格が「水泡に帰すかもしれない」 一発レッドで“魔の15分”…よぎった最悪のシナリオ【コラム】
低調に終わった前半を乗り越え、試合を勝ち切れた要因は…
対して清水の前半はその栃木の厳しい守備に遭い、まったくと言っていいほど奮わなかった。栃木の激しいマークを交わすかのように乾、C・ジュニオ、そしてL・ブラガの前線の選手がポジションにこだわらず、それぞれが前線で幅広くプレーしたが、栃木のタイトな守備網を無力化できず前半を無得点で終える。 しかし、清水は攻めながらも最終局面を崩せない我慢の時間を乗り切り、後半5分に住吉ジェラニレショーンが待望の先制点を奪取する。このゴールで勢いに乗ると、時間の経過とともにJ1昇格の目標が現実へと形作られていったが、試合はすんなりとは終わらない。 試合終盤に数的不利という試練が待ち構えていた。退場者を出した後半38分からアディショナルタイム8分を合わせた15分間は、清水の選手にとってさぞかし時間の経過が遅く感じられたことだろう。得点を奪われ、J1昇格が水泡に帰すかもしれないというプレッシャーが清水の選手にのしかかる。 こうした状況をゴール裏からカメラのファインダーを通して見ていると、サッカーというスポーツは、選手たちの勝利を目指す気迫の強さが、勝敗の決定に大きく影響するのだと改めて感じた。 清水が低調に終わった前半を乗り越え、試合を勝ち切れた要因は、苦しい状況に屈することなく勝利への執着心を持ち続けられた結果だろう。J1昇格という結果と合わせ、勝負強さが発揮されたことは清水の成長を表している。 ただ、これまで覗かせていた勝負弱さを、この一戦だけの勝利で払拭できたとは、指揮官や選手たちも思っていないだろう。対栃木戦での勝利はチームの逞しさを成長させたが、決して万全にしたわけではない。 J1の舞台では戦力の優位性も薄れ、さらなる勝負強さが必要となる。試合後、清水のすべての選手が笑顔だったが、そのなかでとびきり喜びを表していたのは乾だった。来シーズンの日本サッカーリーグ最高峰の舞台において、ピッチ内外で清水の先導者となるのは、この経験豊富な背番号33のゲームメーカーであることは間違いない。 [著者プロフィール] 徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。
徳原隆元 / Takamoto Tokuhara