エビの大使(12月10日)
目玉が飛び出しているから、めでたい。ヒゲが長く腰が曲がっているのは、長寿の証し。紅白の見た目も、祝いの席にぴったりだ。身はぷりぷりとおいしく、栄養たっぷり。エビは縁起物の国民食と言っていい▼世界で最も人気のある甲殻類でもある。〈何世紀にもわたり、その小さな身体にもかかわらず新しい調理法や味を生み出し、食に関する大使としての役割を担ってきた〉。西洋の社会・文化史家イヴェット・フロリオ・レーンは自著につづった。日本の天ぷら食文化を海外に広める架け橋になったとも紹介している。海をまたぐテーブルの外交官さながらだ▼原発事故で全村避難を強いられた葛尾村で、民間業者がバナメイエビの養殖を進める。移住した若者ら10人が来春の本格的な販売開始を目指している。餌の量や水流の調節に日々忙しい。「口にする人たちに、おいしさと安全・安心を感じてもらいたい」。情熱がうまみを一層引き立てる▼エビのアミューズメントパーク構想も描いている。養殖施設の周囲に料理店や販売所、学習施設を配置する。訪れる人が増えて、地域がにぎやかになる。縁起物の「めで大使」が国内外から福を連れてくる。<2024・12・10>