世の中の物事はとびとびである。/執筆:野村泰紀
しかし、この「物事はとびとびである」という効果は、原子や電子などの小さいものを扱う上では無視することはできません。先ほどの原子の構造の例でいえば、電子の原子核からの距離も実はとびとびの値しか取ることができない─例えば0.0000000001メートル、0.0000000002メートル、0.0000000003メートル、…などの値しか取れない─といったことになります(本当はもう少し複雑なのですが、ここでは簡単化した説明をします)。 つまり、ニュートンの理論を当てはめることででてきた「原子核と電子の間の距離が連続的に小さくなりながら電子が原子核に落ち込んでいく」というプロセスは、量子力学的には起こり得ないプロセスだったのです。正しい理論である量子力学を使えば、電子の原子核からの距離はとびとびにしか小さくなっていくことは出来ず、そしてその距離が許される最小の値(たとえば0.0000000001メートル)になったら、それ以上小さくなることは出来ないのです。そしてこれが、自然界に原子というものが存在できる理由だったのです! 今回は、量子力学が「とびとび力学」であるということを見てきました。次回は、量子力学のもっとも不思議な一面を際立たせる「二重スリット実験」とよばれる現象を見ていこうと思います。この実験は、パラレルワールドの存在を実証する実験としても知られています。ご期待ください。
プロフィール
野村泰紀 のむら・やすのり|物理学者。1974年神奈川県生まれ。理学博士取得後渡米し、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授。直近の著書に、YouTubeチャンネル『ReHacQ─リハック─』での配信を元にして書籍化した著書『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』がある。 text: Yasunori Nomura, edit: Momoko Ikeda
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