「忖度」に「○○ファースト」……流行語で振り返る2017年日本政治
「忖度(そんたく)」
忖度とは、広辞苑によれば、他人の心中をおしはかることである。 2017年2月の朝日新聞による報道を契機として、籠池泰典氏が運営していた森友学園に国有地が格安で払い下げられ、その経緯も不透明だったことに批判が高まった。3月には、「(安倍首相や昭恵夫人から)直接の口利きはなかったが、忖度があったと思う」と籠池氏が発言している。首相や夫人から直接の指示はなかったものの、関係する官僚がその意向をおしはかって森友学園に優遇措置を講じたようだ、ということである。 5月には、加計学園が運営する岡山理科大の獣医学部新設計画に関して、文部科学省が内閣府から「総理のご意向」と言われたとする記録文書を作成していたことが報道され、安倍首相に近い同学園に特別の便宜がはかられたのではないかという疑惑が広まった。ここでも官僚が首相の意向を忖度して行動していたことが明らかになった。 一連の森友・加計学園問題は安倍政権を揺るがすこととなり、内閣支持率は低下し、都議選で自民党は大敗した。 このように森友・加計学園問題を通じて有名になった「忖度」は、首相官邸が省庁や与党に対して強大な力を持つ「官邸1強」の実態を象徴的に表すことばである。本来、公務員は中立・公正に業務を執行しなくてはならない。ルールをねじ曲げて権力者に近い人たちだけを優遇することはあってはならないはずである。今回は、首相やその周辺の意向を官僚が忖度してそうしたことが行われたかもしれないことに批判が集まった。 ところで、忖度そのものは悪いことなのだろうか。上記のとおり、その本来の意味は他人の心中を推察することである。一般に組織では、部下は上司の意向を推察して行動する。そうでなければ組織はうまく動かないだろう。会社組織で考えてみても、全社的な方針を社員が共有し、それに基づき皆が行動すれば、その社のパフォーマンスは上がるだろう。 したがって、忖度という行為そのものに問題があるとは考えにくい。今回の問題は、あくまでも、首相官邸の意向を気にするあまり、本来取られなくてはならない適正な手続やルールがねじ曲げられたかもしれないことにある。 「官邸1強」体制の下、日本の官僚はかつて持っていたような中立性や自律性を失いつつある。これは、小泉政権以降、喧伝(けんでん)されてきた「政治主導」の流れからすれば、ある程度当然のことかもしれない。1990年代以降、内閣機能を強化するための統治機構改革が進められ、安倍政権下の2014年には官僚の幹部人事を担う内閣人事局も設置された。政治主導や官邸強化に向けたこれらの改革は、日本政治にガバナンスを取り戻すという点で大きな意義のあるものであったが、近年、その弊害らしきものも見られるようである。専門性に基づいて中立的に業務を執行するという公務員本来の姿をもう一度見直す必要があるだろう。