〈政府効率化担当指名のマスク氏〉トランプとの2つの意見の相違、本当の狙いとは?
マスクの狙いは宇宙事業か
イーロン・マスクが大統領選挙4カ月前にトランプ支持を明確にし、支援の見返りに何を求めるのか注目されていた。この記事は特にそのような問題意識を踏まえたものではないが、この機会に留意すべき点を整理してみたい。 マスクの主要なビジネスは、電気自動車のテスラ、SNSプラットフォームのX、宇宙ビジネスのスペースXがある。マスクのトランプへの接近については、テスラの自動運転分野への事業拡大を目指しているにもかかわらず民主党政権の規制がその障害となっていたこと、また、スペースXは既に国防総省やNASAとの間でロケット打ち上げ等に多くの受注を獲得しているが、更に宇宙軍等国防部門での利権の拡大を期待している等のビジネス上の打算を指摘する見方が多い。 他方、2つの重要な問題でマスクとトランプは考え方が異なる。 1つは、気候変動問題で、マスクは温暖化防止を主張する環境保護派を自称し、そこにはビジネスとしてのEV車普及の狙いもあった。これに対してトランプは、エネルギー業界の利益を背景に、地球温暖化を認めず、バイデン政権のEV車普及や環境保護規制に反対しパリ協定より再度の脱退も目指している。 2つ目は、対中国関係である。テスラのビジネスの飛躍的拡大には、上海のEV工場と中国市場での成功が大きく貢献し、この点は中国も高く評価している。他方、最近では比亜迪(BYD)等中国EV企業に実績面で抜かれているが、テスラにとって依然として中国市場は重要であり、中国でも自動運転分野で巻き返しを図ろうとしている。 マスクはバイデン政権の中国のEV車に対する関税賦課に反対していた。他方、トランプは、中国製品が米国企業衰退の原因であるとして、中国からのすべての輸入に一律60%以上の関税を課すとも言っている。中国製のテスラは米国市場向けではないが、米中関係の対立がさらに深まれば、同社の中国ビジネスへの影響は免れないであろう。 他方、環境やテスラの問題よりも、マスクの関心は、むしろ宇宙ビジネスに重点が置かれているようにも見え、また、国際的な紛争や対立に関与する言動が目立つようになった。衛星インターネット・サービスを提供するスターリンクを運用するスペースX社は、日本を含む世界で広く利用されているが、ロシアのウクライナ侵攻直後ウクライナにスターリンクと大量の端末を無償で提供し、ウクライナにとって大きな支援となった。その後、ドローン等による軍事攻撃のためのスターリンクの使用を制限し、ウクライナの譲歩による停戦を示唆する等、マスクの立場は変化した。