パワハラに賃金未払い告発…大手映像制作会社で「民事訴訟連発」の「背景と今後」
いったい何が起きているのか
大手映像・音楽ソフトメーカーのポニーキャニオンで民事訴訟が頻発している。いずれも社員らが原告となり、会社や吉村隆社長ら経営幹部を訴えた。 【写真】2025年卒必見!「一流ホワイト企業ランキング」TOP100 ポニーキャニオンといえば、メディア界を代表するフジ・メディア・ホールディングス(FMH)の100%子会社で、売上高約336億円(23年3月期)、従業員数446名(同)と、この分野では大手に属する。事業規模以上に知名度は高く、社会的な影響力は大きいといえよう。 ポニーキャニオンで何が起きているのか。 今年3月27日、同社元経営本部長の吉田周作氏が、コンプライアンス体制の是正に努めていたところ、代表取締役の吉村隆社長が業績評価を違法に低下させる決定をし、経営本部長ポストを剥奪したことで損害が発生したとして、会社と吉村氏を被告とする損害賠償請求訴訟を起こした。 同日、ポニーキャニオン子会社「エグジットチェーンズ(現EMP)」で、所属アーティストのマーケティング業務を行なっていた社員の鄭淇輿氏が、恒常的にマーケティングクリエイティヴ本部長の今井一成氏からパワーハラスメント行為を受け、今年3月12日に抑うつ病の診断を受けて休職を余儀なくされたとして、今井氏とポニーキャニオンを被告とする損害賠償請求訴訟を起こした。 4月9日には、アニメ『グリッドマン』などを手掛けたエースプロデューサーの伊藤裕史氏が、『けいおん! 』アプリ開発に関して会社に少なくとも8億円の損失を出したことを理由に降格処分を受け、賃金を控除され賞与を返納させられるなどして損害を被ったとして、会社と吉村社長、法務担当常務の深町徳子氏を被告として未払賃金等請求訴訟を起こしている。
事実上頓挫した企画が…
3つの訴訟は、それぞれに原告の立場が違い受けた被害内容も異なっている。しかし経営本部長という職責を持つ吉田氏が、吉村体制の改善を求めてFMHに内部通報したことが示すように、「ポニーキャニオンの内部体質」が背景にあることは明らかだろう。それを如実に示すのが『けいおん! 』アプリ化の失敗と、その処分である。 『けいおん! 』は、廃部寸前の私立桜が丘高校軽音部で4人の生徒がバンドを組み、部を蘇らせるというストーリー。4コマ漫画としてスタートし、アニメ化されて大ヒットする。『けいおん! 』制作委員会に加わったポニーキャニオンにも大きな収益をもたらすが、それをゲームにしてアプリ化しようと発案したのが伊藤氏だった。 アプリ制作のグリーに提案し、制作費用8億円で両社が50%ずつ費用分担することで合意を得たものの、商品化窓口のTBS、原作の芳文社、キーとなるアニメ制作の京都アニメーション(京アニ)などとゲーム化許諾の確認を取っていなかったことからトラブルとなる。 18年に京アニが事業化を断わってきたために事実上頓挫するが、上層部は企画実現への強い意欲を持っていた。 担当のアニメクリエイティブ(AC)本部は、何度か上層部に企画中止を申し入れるが、現場には担当役員らを通じて「本件企画は当初からリスクが高いにもかかわらず現場が『やりたい』と上程してきたもの。それを中断するのは許さない」、「俺の顔に泥を塗るのか。できなかったら懲罰処分だ」といった吉村氏の意向が伝えられ、ズルズルと企画は継続したという。 AC本部は、19年7月17日、一度白紙に戻したうえでの再企画を京アニに申し入れるが、翌18日、京都・伏見区の京アニスタジオが放火され36名が亡くなるという大惨事が発生した。京アニは実質的に機能停止となり再交渉の見通しも立たないまま減損処理が決まる。