【島々の地域づくり事業協組】 全国初、空き家対策事業も とくのしま伊仙
とくのしま伊仙まちづくり協同組合は2022年9月、伊仙町内の6事業者で設立。10月18日付で、特定地域づくり事業協同組合(特地事業協組)の知事認定を受けた。設立時の事業者職種は農業2、幼保連携型認定こども園2、福祉事業所1と放課後学童保育などを展開する一般社団法人「長寿子宝社」。 結成キーパーソンは20年に大阪から徳之島2世の妻と移住してきた大保健司さん(37)。22年の初め、地域の集まりで、前年発足した「えらぶ島づくり事業協組」が話題になり、「徳之島でもこういう組織を」という動きになった。 大保さん自身にも動機があった。「島は高齢化、人手不足、空き家の増加、介護需要の増加などが加速していく。その流れを変えたい。緩やかでもいいので人が入ってくる流れもつくりたいと思っていた。仕事や住まい、島での暮らしといった移住の総合的な窓口にうまくたどり着けなかったという自分の経験も、動機になった」 町役場や鹿児島県中小企業団体中央会に相談。特地事業協組設立にこぎ着け、事務局長となった。 組合員事業者・おもなわこども園の園長、松澤尚明さん(47)は22年初めの集まりの参加者。組合の1年半を「今のところいい展開」と評価した上で、こう語った。 「徳之島はいいところだが何か仕掛けが必要だと思っていた。集まれば『役場が…』『農協が…』という話になる。動かないと何も変わらない。そこに国の新制度ができた。伊仙は大保さんがいたから(組合が)立ち上がった。この制度に徳之島らしいソフトをプラスして進化させたい。今後どうなるか、正直分からないが、島に新しい風を入れ続けなければならない」 芦刈絵里香さん(35)は23年5月、神奈川県から夫婦2人で移住。オンラインでの移住セミナーで大保さんと出会ったのが縁。就農希望だった夫は伊仙町の就農支援制度、絵里香さんは特地事業を活用した。 絵里香さんは、この1年で組合紹介の福祉事業所、そして学童保育と二つの職場を経験。「いろんな所で働き、知り合いが自然に増えた。不安や困ったことは今のところない」 組合は現在、会員6事業者、派遣職員6人。変わらぬ課題の一つが「町内の事業所が少なく、年間を通じて雇用できる仕事を作りにくい」(事務局長の大保さん)。冬場はバレイショやサトウキビなど農業分野を中心に顕著な人手不足。一方、町にはホテルなど観光分野の事業者が少なく、夏場の派遣先確保が難しい。 代表理事の義山農園代表、義山太志さん(46)は「人は来てくれるが、働く場を十分確保できていない。組合の知名度アップの必要性も感じている」。そしてこう語った。 「小売り関係も入ってくれると助かるが、パートに支払う時給と組合に支払う手数料の差がネックになっているようだ。ただ、年間を通してみれば、島の働き手不足は明らか。移住者が増えて働き手が増えれば地域にとっていいことだというのも明らか。町とも調整しながら対応策を考えたい」 組合は今年5月の総会で、特地事業協組としては全国初の「空き家対策事業」の展開を決めた。住居の確保は当初から大きな課題だった。 事務局長の大保さんによると、島内には多くの空き家があるが、住みたくても借りられずに移住やUターンを断念する人が多い。「組合が空き家対策事業に取り組むことで、移住相談から、仕事、家探し、地域との橋渡しまでをワンストップで行い、より移住者が徳之島に来やすい流れをつくっていきたい」と前を見据えた。