欧米各国、イスラエルに国連平和維持軍への攻撃停止を要求 レバノンで
アメリカのジョー・バイデン大統領は11日、イスラエルがレバノンで国連の平和維持軍へ攻撃することを止めるよう、イスラエルに求めていると述べた。レバノンでイスラム教シーア派組織ヒズボラと戦うイスラエルは、48時間のうちに2回、国連平和維持軍に向かって発砲している。 バイデン大統領は記者団の質問を受け、「もちろん、確実に」イスラエルに、国連平和維持軍への攻撃をやめるよう要求していると答えた。 フランス、イタリア、スペイン各国の首脳は同日、共同声明でイスラエル軍の行動に「激怒」しているとして、不当な行動は国際法の「深刻な侵害」だと非難。ただちに停止するよう要求した。 イスラエル国防軍(IDF)は同日、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)に参加するスリランカ人の要員2人が負傷した事案について、自軍の部隊による攻撃だったと認めた。 IDFによると、UNIFILが活動拠点とするレバノン南部ナクーラで、IDF部隊が自分たちへの脅威と特定したものがあり、そこに向かって発砲したという。IDFが脅威と特定したものとUNIFILの位置は約50メートルで、IDFは攻撃にあたってUNIFILに対して防御された場所に留まるよう伝えていたとIDFは説明した。 事実関係の詳細は軍の「最高レベル」で調査すると、IDFは話している。 スリランカ外務省は、自国兵士を負傷させたIDFの行動を「強く非難する」と述べた。 これに先立ち10日には、UNIFILの監視塔をイスラエル軍の戦車が砲撃し、監視塔にいたにインドネシア人の要員2人が落下し負傷した。 UNIFILはさらに、イスラエル国境に近いラブーネにある国連の拠点でも、イスラエル軍車両が障壁をなぎ倒したと報告。いずれも「深刻な展開」だとしている。 ■「国際社会への犯罪」 国連の平和維持活動を担当するジャン=ピエール・ラクロワ事務次長はBBC番組「ニューズアワー」に対して、レバノン南部に展開する国連に対する攻撃の一部は、直接的なものだったと思わせる根拠があると話した。 「たとえば、監視塔が砲撃されたケースがあるほか、監視カメラが破壊された事案もある。明らかにこれはかなり、直接攻撃のように見えた」と、事務次長は話した。 レバノンのナジブ・ミカティ首相は、UNIFILに対するIDFによる11日の攻撃は、「国際社会に対する犯罪だ」と強く非難した。 イスラエルは、UNIFILが地域の安定化を実現できずにいると主張してきた。IDFがヒズボラと対決するのを妨げないよう、UNIFILには北への移動を求めている。 イスラエルのダニー・ダノン国連大使は10日、「危険を避ける」ためにUNIFILは5キロ北へ移動するよう求めた。これに対して、ラクロワ事務次長はUNIFILは移動しないとしている。 UNIFILは1978年の設立以降、レバノン南部のいわゆる「ブルーライン」(国連が設定したレバノンとイスラエル、イスラエル占領下のゴラン高原を隔てる非公式な境界線)と北約30キロメートルに位置するリタニ川の間の地域で活動してきた。 IDFは先週、ブルーライン付近の陣地から離れるよう命じたが、UNIFILはこれに応じなかった。 レバノンには50カ国から約1万人のUNIFIL平和維持活動の軍事要員が派遣されている。約800人の文民スタッフもいる。 ■レバノン各地への攻撃続く イスラエルによるレバノン南部侵攻が続く中、IDFとヒズボラはイスラエルとレバノンの国境を挟んでミサイルやロケット砲による攻撃を続けている。 IDFによると、11日には30分の間にレバノンからイスラエル北部へ向けて約100発のロケット砲が撃ち込まれた。無人航空機2機がレバノンから越境してくる様子を探知し、そのうち1機は撃墜したという。 レバノン保健省は、南部シドンに対するイスラエルの攻撃で2歳の女の子を含む3人が殺害されたと発表した。レバノン軍によると、南部カフラの軍拠点がイスラエル軍の攻撃を受け、レバノン兵2人が殺害された。 レバノンの首都ベイルートでは救急救命隊が、10日に相次いだイスラエルの空爆2件で破壊された建物のがれきの合間を捜索している。 レバノンのミカティ首相は、イスラエルの空爆には何の予告もなく、民間人22人が殺害され、117人が負傷したと明らかにした。イスラエルはこれについてコメントしていない。 ヒズボラは昨年10月8日、イスラエル北部への砲撃を開始した。前日にはイスラム組織ハマスがイスラエル南部を襲撃した。 イランの支援を受けるヒズボラは、パレスチナ人と連帯しているのだと主張し、ガザ地区でイスラエルとハマスが停戦すれば、自分たちもイスラエル攻撃を中止するとしている。 イスラエルは9月下旬からレバノン南部やベイルート南部への攻撃を激化させ、ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師を暗殺し、地上侵攻を開始した。 レバノンによると、3週間の攻撃で2000人以上が殺害され、数十万人が家を失った。 対するイスラエル当局は、ヒズボラの攻撃でイスラエルの民間人2人とタイ人1人が殺害されたとしている。 ■ガザ北部で難民キャンプ「包囲」 他方、イスラエルの軍事作戦が続くガザ地区では11日、北部ジャバリア市と街の北にある避難民キャンプがイスラエルの攻撃を受け、少なくとも30人が殺害されたという。ハマス運営の民間防衛当局がAFP通信に明らかにした。 IDFはこれについてコメントしていない。 国際医療団体「国境なき医師団(MSF)」は、ジャバリア難民キャンプで「数千人が立ち往生している」と明らかにした。そこにはMSFのスタッフ5人も含まれるという。 MSFによると、イスラエル軍は10月7日にジャバリア難民キャンプに退避命令を出したものの、「同時に攻撃もしていた」ため、キャンプにいる人たちは安全に退避できなかった。 ジャバリアにあるアル・アウダ病院のモハメド・サラ院長代行はBBC「ニューズアワー」に対して、同地区は7日前から包囲されていると話した。イスラエル軍が「ジャバリアをガザ全体から切り離している」ため、病院は12日にも燃料がなくなるという。 「薬も医療用品も、衛生的な水も燃料もない。なので、ここにいる人たちにはプレッシャーしかない。南へ直接移動するよう、プレッシャーがかかっている」と、サラ医師は話した。 イスラエルは北部ジャバリア周辺で、あらためて地上作戦を展開している。ハマスがジャバリアを拠点に再集結し、イスラエル攻撃を意図しているからだという。この数日でガザ地区北部では数十人が死亡もしくは負傷していると報告されている。 (英語記事 US urges Israel to stop shooting at UN peacekeepers in Lebanon)
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