石破首相が決戦の日に漏らしていた苦悩の胸中――大島新×日テレ政治部が“会話”で映し出すトップの政治家たち
■立民・泉健太氏が言った「猫をかぶってた」 前者の応答をした一人として例を挙げるのは、当時立憲民主党の現職代表だった泉健太氏。大島氏は「爽やかな好青年のようなイメージがあったのですが、自分が代表を務めた3年間を“猫をかぶってた”と言ったのに驚きましたし、後半はちょっと感情的になられて、旧民主党の分裂の歴史を“悲しみの連続”とまで言ったんです。内に秘めたマグマみたいなものがある人なんだと感じました」と、印象が変わった。 泉氏のインタビューを見て、「あそこまで熱いものを持っている人だということが映像化されるのは価値がある」と感じた井上氏は、大島氏の生み出す映像に「これがドキュメンタリーだなと思いました」と手応えをつかんだ。 「僕らは政治家をカメラで取材するONの場と、撮影しないOFFの場があるのですが、大島監督の取材ではカメラが回っていてもOFFの場で接する雰囲気に近いものが映像として収められていることに、不思議な感覚がありました。それと、合間に“うーん”と発するところは、テレビのニュースだと切ってしまうのですが、そこも含めて一つのパッケージにされることで、政治家とその空気感が混然と一体化している感じがして、これが監督の技なんだと思いました」(井上氏) この評価に、大島氏は「これは政治部の皆さんとミッションが違うだけなんです。今回の取材でご一緒した記者さんはすごく頑張ってらっしゃって優秀だし、いつも以上にニュースをウォッチするようになったのですが、どの局もちゃんと日々政策を含めて報じられているけど、それをみんながやるから、どうしても横並びに見えてしまう。私の場合はそこで勝負しても仕方ないので、すごく平たく言うと1本のパッケージとしていかに面白いものを作っていくかを重視していますから」と、それぞれが役割を全うしていることを強調した。
候補者たちに共通して感じた精神力の強さ
今回の取材対象は政治家の中でも、選挙区や党内で力を持ったトップを目指す人たちだ。そんな人物に接し、大島氏は共通して、「まず体力がすごいと思いましたが、それ以上に精神力の強さを感じました」という。 「又聞きですが、小泉純一郎さんが総理大臣になって“なんでこんなに批判されるんだろう”と言っていたように、今回の人たちも組織で上に行けば行くほど強く支持してくれる人もいれば、批判する人も増えていく。だから、皆さん面の皮が厚いなと思いました(笑)。大抵の政治家はそうじゃないとやっていけないと思うのですが、総理を目指す人たちには、よりそういう部分があるのではないかと感じますね」 これを受け、井上氏は「小泉さんも言われていましたが、政治家には確かに“鈍感力”が求められると思います。あらゆる批判を受け止めて全部消化しようとすると、国家運営はできないので、小泉さんは結構受け流しながら、笑い飛ばしながら政治を動かしていくという技術に長けた人だったと思います」と解説。一方で、総裁選を勝ち抜き総理になった石破茂氏については、「比較的、真正面に受け止める方ですし、今回のドキュメントでもとても真面目な方であるというのが見えると思います」と予告する。 その性格を象徴するシーンが、総理になってすぐに衆議院を解散して迎えた総選挙の投開票当日の電話インタビューだ。与党苦戦の情勢が伝えられていた中で、苦悩の胸中を表す言葉を漏らしている。 常に自分のペースを作って冷静に話す石破首相から発せられた意外な本音に、大島氏は「面の皮が厚い人でも、やはり総理というポジションはまた全然違うプレッシャーが見えた場面でした。あのシーンがあってすごく良かったと思います」といい、長く永田町を取材してきた井上氏も「あんな本音はなかなか聞けないですし、放送されることが分かっている状況でトップが話していることに、なおさら驚きました」と衝撃を語る。 大島氏は、この電話インタビューが実現できた理由を「本当に日テレの担当記者の方のおかげです」と感謝するが、「今回の取材で話を聞ける機会が一番多かったのは、偶然石破さんだったんです」と、短い期間ながら関係性を築けたことも大きい。井上氏は「あのタイミングで取材を受けてくれたのは、取材者として大島監督が本気で相対してきたのに対して、石破さんが本気で向き合うという気持ちがあったのだと思います」と推察した。