石破首相が決戦の日に漏らしていた苦悩の胸中――大島新×日テレ政治部が“会話”で映し出すトップの政治家たち
■テレビの制約を感じる場面は放送尺程度 『なぜ君』を見てのオファーに喜びも感じながら、同時に不安も抱えていた。この映画で追った小川氏は、大島氏の妻と高校の同級生だったことをきっかけに始まった17年にもおよぶ関係性、そして彼のある種“無防備”な人間性もあっての距離感で成立した作品だけに、「私にとっても特殊な事例なので、あのような作品を期待されてしまうと難しい。総裁選や代表選という緊張の現場で、あのような素材が撮れるのだろうか」という懸念があったのだ。 それでも快諾したのは、日テレ政治部の持つ政治家へのアクセス力。「放送に出るのは総裁選も代表選も終わった後なので、票につながらないわけじゃないですか。そこに僕が一つ一つ事務所に連絡して取材依頼していたら、半分も受けてもらえなかったと思います。日テレ政治部が培ってきた関係性がある中で、様々な政治家にインタビューできるという欲が勝りました」と、今回の企画が動き出した。 『NNNドキュメント』は、日テレ系列局の社員がディレクターとして制作することがほとんどなだけに、制作会社の大島氏が担当し、なおかつ自らが一人称でナレーションもするのは異例。政治を真正面から捉えるテーマも珍しいケースで、「多少は社内で調整もありましたが、やはり面白いものを出したいという思いで乗り越えられました」(井上氏)という。 そんな姿勢ゆえ、大島氏も「テレビの制約を感じる場面は放送尺くらいで、本当に自由にやらせてもらいました。編集しながらプレビュー(試写)を重ねていますが、そこで指摘いただくのは、より面白くするための意見なので、納得できることが多かったです」と満足の行く番組制作ができたようだ。
自分の言葉でしゃべる人と用意された答えがある人
番組制作にあたって告示前に決めたのは、立候補者全員に30分間のインタビューを行うということ。しかし、総裁選の候補者は過去最多の9人まで乱立し、大島氏は「放送でほとんど使えない人が出くることになると思って、これはマズいと思いました(笑)」と振り返る。 それでも、政治部の記者たちがアポイントを取り、自民党は高市早苗氏と小泉進次郎氏を除く7人、立憲民主党は4人全員に30分のインタビューを実施。その結果、大島氏の懸念通り、登場時間が大幅にカットされる候補者が出てしまったが、どのような基準で編集したのか。 「インタビューをしてみると、自分の言葉でしゃべってらっしゃる方と、用意された答えがあるなと感じる方がいました。僕はいつも被写体と“会話”して、それを映像化することを心がけているので、自分の言いたいことや安全な決まったことしか言わない後者のような方は、他の方がインタビューをしても変わらない答えになると思い、結果的に放送で使っているのは前者の方が多くなりました」(大島氏)