『西園寺さんは家事をしない』津田健次郎の魅力が染み渡る 西園寺さんが楠見に伝えた言葉
「自分の中にどんな味が残っていますか? 誰の中にどんな味を残しましたか?」 『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)第9話は、カズト横井(津田健次郎)の魅力が染み渡った回だった。 【写真】西園寺さん(松本若菜)と話す楠見(松村北斗) 突然「楠見くんに恋愛感情がある」と西園寺一妃(松本若菜)に告げられた横井は、ショックを受けながらもその気持ちに寄り添った上で「僕が楠見さんへの恋心を抹消します」と“ジュウゼロ横井計画”を始動する。ちょうど家事レスQ動画で横井とコラボしている西園寺さんのハグ写真が出回り、会社でその真相を問われた際にも彼は2人の関係を公にしなかった。西園寺さんの気持ちが揺れている時に、周囲に関係をオープンにしてしまうと別れを切り出しにくくなるだろうという配慮が素晴らしい。 別れに応じてくれない男となると、通常付きまといや執着が激しく、なかなか見るに堪えない展開になってしまうことが多い中、丁寧に言葉を尽くし、さらに“別れ”の可能性も加味している横井のスタンスは、こちらに恐怖心を一切与えない。 また「僕はジュウゼロの横井にはなれない。でもジュウゼロじゃないあなたを受け止めることはできる。あなたの全てと一緒にいたいんです」という言葉も、“ズルい提案”とした上で真っ直ぐに思いの丈を伝える。矛盾ごと受け入れ、「あなたがあなたらしくいてほしい」という最大の愛情表現が込められているように思える。 家事レスQとのコラボ企画の最終回では、横井は市販のめんつゆを使わず急遽めんつゆから手作りし始める。出来上がっためんつゆに形としては残らないが、味としてはしっかり残る昆布とかつお節は、そこに存在している。それを横井は「人生と似ている。たくさんの人と出会い別れ、でも味は残っている。記憶の中に、心の中に」としみじみ話し始める。だからこそ、形としてわかりやすく残らなかったとしても、自分の存在にもすべての人の存在にも意味があると思える、と語りかけた横井の独り語りには、すっかり引き込まれてしまった。 横井のこの感覚は、「楠見くんの中の瑠衣さんの話はやっぱり楠見くんの話」という西園寺さんの感性とも近しい。横井は、楠見俊直(松村北斗/SixTONES)の中にいる亡き妻・瑠衣(松井愛莉)の存在や、瑠衣を思い出しながらも西園寺さんに好意のある楠見、また瑠衣という塗り替えのできない存在がいる楠見に惹かれる西園寺さんのこともすべてを肯定し、背中押ししてくれているように思えた。時に「ママ」という言葉を連呼しながら思いっきり泣き出してしまうルカ(倉田瑛茉)のこともそっと包み込んでくれるような言葉だった。 普段のYouTube撮影時のテンションの高い横井ではなく、サングラスを取って噛み締めるように話す横井の姿や口調は、さすが声色の魔術師でもある津田健次郎が為せる業だった。 「別れよう」という言葉は一切交わさずに、「味残りました?」「もう染みっ染みです」と言い合う横井と西園寺さんの2人の掛け合いには信頼関係が滲み、“大人の恋っていいなぁ”と思わされる。 さて、これで“偽家族”のみの生活に戻ったかと思いきや、西園寺さんは楠見に家から出て行ってほしいと伝える。ようやく自分の中に姿形としても味としても残り続け更新されている存在は誰なのかを確認し合えた2人は、どんな在り方を模索するのだろうか。
佳香(かこ)