「光る君へ」考証&演者“異色の二刀流”実資の女房「ピッタリすぎ」研究対象の役に驚き!千野裕子語る裏側
女優の吉高由里子(36)が主演を務めるNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜後8・00)は3日、第42話が放送され、日本古典文学の研究者で女優の千野裕子(37)が藤原実資(秋山竜次)の召人(めしうど)・百乃(ももの)役で再登場した。今作は「古文訳考証」「資料提供」を担当し、スタッフも兼任。異色の“二刀流”の舞台裏を聞いた。 【写真】大河ドラマ「光る君へ」第42話。愛娘・千古を抱く藤原実資(秋山竜次)と百乃(千野裕子) <※以下、ネタバレ有> 「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と」などの名作を生み続ける“ラブストーリーの名手”大石氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となった。 千野が演じた百乃はドラマオリジナルのキャラクターで、召人とは平安時代、貴族に仕え、特に主人と男女関係にある女房のこと。初登場は第31話(8月18日)。実資が藤原公任(町田啓太)の屋敷を訪れ、昇進しそびれた公任を激励したが、主たる目的は百乃との密会だった。同回はオープニングタイトルバックで「古文訳考証 千野裕子」「百乃 千野裕子」と2度、クレジットされた。 千野の大河出演は黒田長政の妻役を演じた「功名が辻」、孝明天皇の密書を運ぶ女官役を演じた「八重の桜」(13年)に続き、11年ぶり3回目。過去2回はスタッフを兼ねておらず“二刀流”は今回が初となった。研究者としては、平安時代を中心とした王朝物語文学が専門。23年からは学習院大学文学部准教授(日本語日本文学科)を務める。 過去にスタッフとキャストを兼任したのは「西郷どん」(18年)の迫田孝也(薩摩ことば指導、江藤新平役)、「どうする家康」(23年)「光る君へ」の友吉鶴心氏(芸能考証、どうする家康:琵琶法師役、光る君へ:役名なし)らがいる。 千野は「役者としては、大河ドラマへの出演は本当に光栄なことですし、素直にとてもうれしかったです。研究者としては、平安時代の物語文学に登場する“男性貴族と性愛関係にある女房”が研究対象の一つでもあり、ちょうどそんな論文を書いた直後でもあったので“ピッタリすぎる”とビックリしてしまいました。これは研究者仲間に相当イジられるだろうなと思いました(笑)」と研究対象ど真ん中の役柄との“二刀流”に喜びと驚き。 百乃が御簾越しに現れ、実資を部屋に招き入れる台詞なしのシーンだったが「最初に台本を読んだ時から、たぶん面白い場面になるのだろうなぁと予感していたのですが、実際にリハーサルで秋山さんとお会いして、そのあまりの存在感に予感が確信に変わりました(笑)。まずは足を引っ張らないことを第一にしつつ、独特の空気感をつくれたらいいなぁと。当初、百乃という名前は付いておらず“真面目な顔の女房”という書かれ方がされていたので、コミカルな場面こそ真面目な顔をしていた方が面白いだろう、という理解で臨みました。ちょっと媚びた感じで誘うイメージもしていたのですが、演出の中島由貴監督からは『対等な感じで強くいっちゃってください』と。なので、グイグイいかせていただきました」と振り返った。 この日の第42話は、実資の2歳の愛娘・千古(ちふる)の母として再登場した。 古文訳考証としては、まひろ(吉高由里子)が創作した物語「カササギ語り」などの古文訳を担当。「これらは『光る君へ』のオリジナル作品なので、現代語で書かれたものを頂いて、それを古文に訳しました。仕事柄、古文を現代語に訳すことは日常的にありますが、逆の作業は初めてだったので、慣れるまでにちょっと時間がかかりました。紫式部の作風に近くなるように、所々に『源氏物語』に出てくる表現を散りばめてみたりもして、楽しかったです」。ちなみに「源氏物語」の現代語訳は平安文学考証の高野晴代氏(日本女子大学名誉教授)が担当している。 資料提供は、劇中に登場する和歌の選定を中心にリサーチを担当。まひろらが詠むものはもちろん、台詞にならずとも小道具の手紙類に書かれた和歌も、同時代のものを中心に様々な和歌集からリストアップした。 第31話の撮影時は「ちょうど担当案件があって、控室に『和泉式部集』を持ち込んで、衣装のままスタッフとしての作業もしていました(笑)」と明かした。 作・演出を務める劇団「貴社の記者は汽車で帰社」は来年、旗揚げ20周年。日本古典文学を舞台化し、今年9月の「紫式部の日記<モノガタリ>」に続き、来年2月には新作「源氏物語の続きがほしい!」(新宿・絵空箱)が控える。 「実は『源氏物語』には、後の時代の人が想像して続きを書いた、いわば2次創作のような作品が残っています。その代表的な作品の『山路の露』と『雲隠六帖』を取り上げて、劇団20周年記念として楽しく舞台化しようと思っています」 ◇千野 裕子(ちの・ゆうこ)1987年(昭62)1月12日生まれ、東京都出身。中学・高校と学習院に在籍し、演劇部に所属。2009年、学習院大学文学部(日本語日本文学科)を卒業。16年、博士(日本語日本文学)の学位を取得した。女優としても活躍し、連続ドラマ「わるいやつら」(テレビ朝日)「猟奇的な彼女」(TBS)などに出演。主な著書に「女房たちの王朝物語論」(青土社)などがある。