「足す」から「引く」へ。失われた30年を経て生まれた「日本型ミニマリズム」の正体
アメリカの一部のエリート層で始まった「ミニマリズム」という考え方は、2010年頃から日本でも取り入れられるようになり、実践する人の数が徐々に増加。今や単にモノを減らすのみにとどまらず、生活防衛としての節約や貯蓄術など、独自の進化を遂げているようだ。本稿は、真鍋 厚『人生は心の持ち方で変えられる?〈自己啓発文化〉の深層を解く』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● アメリカの一部のエリート層の 小さな反逆として始まったミニマリズム お片付け、断捨離と並んで語られるミニマリズム。 日本ではあまり認知されていないが、もともとミニマリズムは、アメリカの一部のエリート層の小さな反逆として始まった。 親世代に特有の物質主義、つまりステータスシンボルとされる高級住宅、高級車、高級家具などを追い求める生き方に疑問を抱いた末に創出された、「反消費・反物質主義」の新しいカウンターカルチャー(対抗文化)なのである。 簡単にいえば、モノに支配される生活から抜け出し、本当に大切なことにだけに集中することで、自分の幸せを追求しようとする思想だ。 例えば、有名なミニマリストユニットである「The Minimalists」のジョシュア・フィールズ・ミルバーンは、かつては数十万ドルの収入があるエリートビジネスパーソンだった。 大きな家と高級車、多数のブランド品に囲まれ、望むものは何でも手に入ったが、精神的には貧しく不幸だったと振り返っている。 当時の僕らは、どちらも年収数十万ドルの高給取りで、高級車を乗り回し、大きな家を持ち、遊び道具にも事欠かず、豊富な品々に囲まれて暮らしていました。 そんな風に欲しいものは何でも持っていたくせに、自分の人生に満足できませんでした。ハッピーでもなければ、充たされてもいないと感じていたのです。週に70~80時間働いて、たくさんの物品を買い漁っても、この空しさは埋めることはできないことに僕らは気づきました。 そこで、「ミニマリズム」という考え方をもとに、本当に大切なことだけにフォーカスすることで、コントロールを失っていた自分たちの人生をもう一度自分のもとに引き戻すことにしました。(ジョシュア・フィールズ・ミルバーン/ライアン・ニコデマス『minimalism30歳からはじめるミニマル・ライフ』フィルムアート社、2014) モノの消費によって満足を得ること、つまり物欲を満たすことによる幸福の実現は、より多くのお金を稼がねばならず、過重な働き方を強いることになる。そのため、次々と負債やストレスが積み重なって、何も良いことはないという実感がミニマリズムの根底にはあった。