ドイツ政治における変化と継続:ポスト・ショルツ政権の動向を占う
ドイツ連邦議会(総議席数733)の政党別議席数
・社会民主党(SPD) 207 ・キリスト教民主党(CDU/CSU) 196 ・緑の党 117 ・自由民主党 90 ・ドイツのための選択肢 76 ・左翼党 28 ・ヴァーゲンクネヒト同盟 10 ・その他 9 2024年12月現在、nippon.com編集部が作成
継続性の優位
これまでの世論調査の動向を見る限り、総選挙ではキリスト教民主党が第1党に返り咲きそうだが、短期的には政局に大きな動揺はなさそうで、選挙後の大きな状況変化は視野に入っていない(※2)。 2024年の政治的変化の一つは、左翼党に所属し、17年選挙では党の顔として選挙戦の先頭に立つ筆頭候補(首相候補)も務めた政治家による新党、ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟が6月の欧州議会選挙で6%の得票と議席獲得に成功したことである。ただしこれを受けて左翼党への支持が低迷し、議席獲得ハードルである5%を下回る情勢であり、新党の登場が政党数増加につながらない可能性がある。また同党の特徴はウクライナ支援への消極姿勢にあるが、秋の3つの州議会選挙に続く連合交渉にも参加し、うち2つでは州の政権樹立を助ける行動をとるなど、その他の点では普通の政党として行動している。 ドイツのための選択肢は、前回選挙での10.3%から大きく勢力を伸ばす可能性が高く、第2党の座をうかがう。それ自体は重要な変化だが、移民争点は一時の注目を失っており、突発的な事件がない限り世論の急な変動は考えにくい。短期的に政権形成を妨げる要因にはならないだろう。 したがって選挙後は、第1党となるキリスト教民主党を中心に、社民党、緑の党、(議席確保に成功すれば)自民党といった既成政党による連合交渉が行われるとみられる。キリスト教民主党の首相候補メルツはメルケル前首相の長年の政敵であり、党の中道化を進めたメルケルとは逆に、社会経済政策上は右、社会文化政策上は保守の方向への指向性を持つ。選挙プログラムにおいては厳格な移民政策や減税などが掲げられており、緑の党や社民党との距離は開くため、連合交渉にも紆余(うよ)曲折はあるだろう。ただし、メルツは人気のある政治家ではなく、ショルツとの比較でも大差なく低い支持しか得られていない。選挙での勝利を追い風とすることは難しそうである。 しかも、指導者個人の政策指向が直接に政策変化につながるわけではないのが、ドイツの政治制度の特徴である。新政権も連合政権であることに変わりはなく、首相は連合パートナーとの合意形成に依存する。これに加えて、半分近くの立法は州代表の集う連邦参議院の賛成を必要とする。16ある州では、多党化に伴って多様な政権組み合わせが存在しており,連邦での野党もどこかの州では政権与党の一部を構成している。そのため野党との協力も不可避である(※3)。これに欧州連合(EU)をはじめとする国際的拘束が加わる。戦後ドイツは国際枠組みの中で主権回復を認められた国家であり、その枠を踏み越えて単独行動主義的な自己主張を行うことは考えにくい。 対外政策面でも大転換が起きる可能性は小さい。確かにヴァーゲンクネヒト同盟の進出に見られるように、ドイツ国内ではウクライナ支援の継続に対する支持がやや低下する傾向にある。また、ドイツのための選択肢の選挙プログラムでは、EUからの脱退やマルク再導入などが掲げられている。しかし、ウクライナ支援は全体としては国民の半数以上に支持されている。また現政権の中では武器供与に対して最も消極的なのが社民党であり、仮にキリスト教民主党と(支援強化に積極的な)緑の党の連合が成立するならば,現在以上に支援を強める可能性がある。またEUをめぐる争点はいま注目を集めている争点ではなく、全般的なEUへの支持も高いため、これが大きな影響を及ぼすとは考えにくい。対中政策においても、キリスト教民主党が社民・緑・自民の3党と大きく異なるわけではない(※4)。