<解説>小野憲史のゲーム時評 「ポケットモンスターを遊びつくす本」がもたらしたもの
超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、伝説の攻略本「ポケットモンスターを遊びつくす本」(キルタイムコミュニケーション)が小野さんに与えた影響について語ってもらいます。 【写真】ピカチュウ、イーブイ、ミュウも! オシャレな「GU」アパレル一挙公開
◇
「ゲーム批評」の成功を受けて、姉妹誌「パソコン批評」が刊行され、おかげさまで読者に受け入れられた。ただし、これによって版元のマイクロデザイン出版局(現:マイクロマガジン社)に硬派なイメージがついた。そこで、より多様なジャンルの出版物を企画・制作・出版することを目的に、キルタイムコミュニケーションが1995年11月に設立された。別会社とはいえ、フロアは同じで、仲間意識が強かった。
そこからいきなり、出会い頭の場外ホームランが出た。それが1996年6月に出版された攻略本「ポケットモンスターを遊びつくす本」だ。ゲーム「ポケモン」のシリーズ展開にあわせて「赤」「緑」「青」と刊行が続き、1997年7月まで全8点が出版され、累計で100万部を突破した。「ゲーム批評」の実売が数万部だったため、天地がひっくり返るような騒ぎとなった。
今では世界的なコンテンツとなった「ポケットモンスター」シリーズだが、1996年2月に発売された当時は、「地味な佳作」だった。火がついたのは1997年4月から始まったアニメ放送からだ。そのため攻略本の企画が立てられた当時も、「本当に需要があるのか」と半信半疑だった。ゲームが発売された数カ月後に書店に並ぶスケジュールになるため、ゲームの商品寿命が尽きてしまうことが想定されたからだ。
通常、攻略本はゲームの開発と並行して編集が進み、発売と同時に書店に並ぶ。にもかかわらず出版されたのは、社内外に熱心なポケモンフリークがいたからだ。ただし、できるだけコストを削った結果、ポケットサイズでモノクロの誌面となった。読者対象も「ゲームをクリア済みのユーザー」で、ポケモンの育成と対戦に焦点を当てた。そのかわり、小学生でも購入しやすいように、定価を数百円と下げた。