なぜ、アイリスオーヤマは「ピンチ」のときにこそ業績が飛躍的に伸びるのか?
いかに強みを活かして瞬発対応力を発揮できるか
──本書では、ユーザーインの発想を育む場がプレゼン会議だとありました。新たなアイデアを通過させるかどうか、どんな基準で判断を下すのでしょうか。 プレゼン会議は、毎週月曜に全部署の責任者が集まり、5~10分で社員が次々とプレゼンテーションをしていく開発会議です。当社の2万5000点の製品はすべてこの会議から生まれます。息子の大山晃弘に社長をバトンタッチしてからは、議長である彼の決裁で進みます。「わかった。OK!」と数分で即決という速さが、事業スピードに直結しているのです。 徹底しているのはユーザーインの目線でジャッジすること。提案した自分たちが本当にその製品をほしいかどうかを自問します。 ただし、完全なゼロイチはリスクのかたまりですから、アイリスオーヤマの強みを活かせるかどうかが大事な判断軸になっています。たとえば、東日本大震災で節電が必須になった際は、すでに中国の大連工場でLED照明を製造していたので、直ちに生産能力を従来の3倍まで引き上げるよう指示し、前年の3~5倍の受注が可能になりました。 細々と複数の事業をやり、生活者のニーズが増えたときに生産を拡大する。これは「あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめる」というルールを徹底しているからこそ可能なこと。何かの需要が出現したら、予備スペースを活用してすぐさま増産ができるのです。 植物の茎は、地上では見えなくても、地中では芋のようにつながっています。他社は、効率優先で地面に見えている強い部分だけ残して、地中の茎を切ってしまっているのでしょう。一方、アイリスオーヤマでは、将来を見据えて地中の茎を大事に育てています。 大事なのは、いかに強みを活かして瞬発対応力を発揮できるか。強みを持つマーケットの変化を有機的に結びつけることが、トップの仕事だと考えています。 ──アイリスオーヤマは「ビッグチェンジにはビッグチャンスが到来する」という思想のもと、世のピンチのときこそ業績を伸ばしています。数々の実例のなかで、大山会長が特に印象に残っている事例は何でしょうか。 コロナショックでのマスク増産ですね。2020年1月に新型コロナウイルス感染症拡大の情報を聞いた瞬間、翌週から大増産に向けて工場増設すると決めた。事実、世界各国でマスクの需要が急拡大しました。 迅速な変化への対応を即断即決できたのは、ユーザのニーズにアンテナを張り続けているから。マスクは中国だけでなく、日本、アメリカ、ヨーロッパ、韓国でも製造しました。各国とも安心安全な自国生産を要望したためです。やはりコロナが収束すると需要が減り、リバウンドはきました。ですが、人々が困っているときは、そこに集中するのもユーザーインだと捉えています。 ■最大の情報共有ツール「ICジャーナル」 ──経営層だけでなく、従業員も一丸となって同じ方向へと動ける秘訣は何ですか。 1つは、アイリスオーヤマが非上場だから事業計画に縛られず、変化にすぐ対応できること。上場会社だと株主総会から直近の事業計画達成が求められるので、中長期の投資がしにくくなってしまう。 もう1つは、情報共有の仕組みです。上場会社なら、株価に影響のありそうな経営情報は一定の人を除いてクローズにしないといけない。ですが、当社は株価への影響を考えなくていいので、新規事業に関しても情報を隅々まで共有できるわけですね。 たとえば、情報共有ツール「ICジャーナル」では、営業や開発など各持ち場で得た情報を毎日入力します。これはただの日報ではありません。「私ならこう考える」「お客さんはこう求めているから、こうすべき」などと、考えや意見、提案まで書きます。これが、経営層と現場社員との情報格差をなくし、同じ情報をもとに同じ方向へ向かえるよう促してくれるのです。