《ブラジル》特別寄稿=ブラジル日系人の8個の価値観=海外日系人協会常務理事=ブラジル日本文化福祉協会顧問=森本昌義
共感度の高さと多様性に寛容が日系人の特長
ここで、筆者の独断と偏見にご容赦いただいて、あえて現在の日本人との比較の上で、あと2つ、日系ブラジル人が素晴らしいと筆者が感じるところを付け加えさせていただきます。一つは感情移入や共感度(empatia)が高いこと。残念ながら日本人はそんなに他人の気持ちを推しはかるような心つかいはしません。上司やお客さま、自分の利益に関係する人たちに対してはいわゆる忖度することはありますが、知らない人や他国の人に対しては無関心であることが多く、ブラジル人のようにempatiaが豊かではありません。 もうひとつ、これは決定的に日本人に欠けていてブラジルの日系人が持っている美徳ですが、Tolerância a diversidadeです。多様性に寛容であることです。私の考えるところ、日本文化や日本人の価値観のベースにあるのは、機械化する以前の、水田によるコメの栽培で絶対に必要であった集団的作業です。 水田作業は一人一人が勝手に行うことは不可能です。川や溜池から水をひいてくることからはじまり、田植え、稲刈りなど何でもみんな一緒に同じペースでやることが一番効率的でした。さらに皆貧しく、小さな村に固まって暮らしていたので、農作業以外の付き合いなどでも、いつも他人から見られていることを意識して、仲間と同じように行動しました。だから多様性はあり得なかったのです。この一昔前の慣習は、現在の日本社会や日本人の行動にもまだ根強く残っています。 一方、ブラジルに移住した日本人は、ブラジル人との交流を通じて、もともとのブラジルの文化基盤であった「個を大事にする」「他との違いを認める」など多様性に対する寛容性を身に着けた、と私は考えるのです。 このことについて私は小論文を書き、「ブラジル日報」に投稿し、掲載されました。見出しは 「ムラ社会と決別し、個を大切にする日本へ」ですが、この小論は“A SociedadeJaponesa deve deixar de ser uma sociedade MURA e valorizar o individuo”のポルトガル語訳題名で、今年の文協の年鑑誌Coloniaに掲載されたと思います。お読みいただければ幸いです。