年間約3万5000人もの透析患者が命を落とす……「透析治療改革」のために何よりも必要なこと
前編記事『叫び声が出るほどの激痛が走る、激しい痛みに声をあげてのたうち回る……世界3位の透析大国ニッポンで起きている「現実」』より続く。 【画像】「脊髄がドリルに絡みついた」ヤバすぎる医師の手術ミスの一部始終
緩和ケア体制がない
林さんを'17年に看取るまでの凄絶な記録は、『透析を止めた日』(講談社)の第1部で語られるが、第2部では透析治療の問題に迫っていく。 「第1部を書くのはしんどくて、正直なところ、嫌でした。でも、自身の体験記がなければ後半には進めない。体験を土台に透析治療の問題を取材して、あるべき医療を展望する2部を書くことが私の目標でした」(堀川さん) 透析患者は塗炭の苦しみの中で死んでゆく。林さんも人生最後の数日に人生最大の苦しみを味わうことになった。 なぜ透析患者は安らかに逝けないのか? こんな疑問を抱いて堀川さんは取材を進める。 その中で、質の高い療養生活を送れるよう、症状を和らげたり精神面を支える「緩和ケア」の重要性を痛感するのだが、がん以外の病には緩和ケア体制が取られていないことに気づく。 なぜか? その理由には、緩和ケアの保険適用の対象が主にがん患者に限定されているという診療報酬の問題がある。末期腎不全患者の緩和ケアをしても、医師に相応の見返りがない。
自宅で行える透析法も
「病院はどこも経営が厳しいので、医者はタダ働きなどしません。だから医療制度を変えて儲けられる仕組みをつくるしかない。 私がこの本を書いた目的は、透析患者も緩和ケアが受けられるように医療制度を改革することです」 今の時代、がん以外で亡くなる人のほうが多い。緩和ケアのノウハウを他の病にも適用するときが来ているのだ。 同時に堀川さんは、「医師が透析患者に複数の選択肢を提示すること」も訴えている。 たとえば、血液透析とは異なる「腹膜透析」。腕ではなく腹に点滴をするように管を通して、水分や老廃物を体外に送り出す治療法だ。 1回約30分の透析を1日3~4回繰り返す方法や、就寝中の8時間ほどの間に小型透析器を使って行う方法がある。 治療効果は血液透析より緩やかだが、身体への負担が少なく、何より自宅で行えるので、患者のQOLを保てるという。 「林の闘病当時、医師から腹膜透析についての説明は一切ありませんでした。もしこれを選択肢として提示されていたら、迷わず選んでいたかもしれません」(堀川さん) 日本の腹膜透析患者は、透析患者全体のわずか2.9%。体制が整わない地域が大半だが、今後、終末期の透析治療として、全国的に広がる可能性は大いにある。 日本では、年間約3万5000人もの透析患者が命を落としている。患者やその家族が透析治療改革のために声を上げるべきだと語る堀川さんは、こう続ける。 「透析の終末期についての情報はこれまで皆無でした。参考文献などなく、実体験から手探りで書いた私の本が、おそらく初めての情報でしょう。 これがきっかけとなり、日本の透析治療が大きく変わっていくことを願ってやみません」 ……・・ 【さらに読む】なぜ日本では「透析患者の死」を語るのはタブー視されるのか?…「まるで透析患者に死は永遠に訪れないかのよう」 「週刊現代」2024年11月30日号より
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