「規制当局者を装った政治家」──フォーチュン誌のゲンスラーSEC委員長特集から学ぶ3つのポイント
ルールの提案は多いが採択は少ない
議会から新たな法案が提出されないなか、ゲンスラー氏は金融セクターを規制するために既存の法律に目を向けてきた。そのため、暗号資産や気候変動に対する企業の責任報告方法など、さまざまな分野において、ゲンスラー氏指揮下のSECでは規則作りが相次いでいる。しかし、その多くは現在、訴訟やその他の難題で泥沼にはまっているようだ。 フォーチュン誌は次のように伝えている。 「規則を最終的にまとめることは、ゲンスラー氏の頭痛の種となった。米証券業金融市場協会によると、ゲンスラー氏は就任から30カ月の間に、直近の前任者2人に比べ、それぞれ62%、91%多くの規則案を提出した。その中身は、ブローカー・ディーラーが顧客に関する予測分析を利用する方法から、アメリカの取引システムの一部見直しに至るまで多岐にわたる。 しかし、このような取り組みには業界の意見を求めるためのコメント期間が必要であり、ゲンスラー氏の野心は金融界全体から反発を招いている。ブルームバーグは8月、ゲンスラー氏のルール採択の実績は過去数十年で最も遅かったと報じた」 一方、ゲンスラー氏の執行措置は、SECがターゲットにした企業が起こした訴訟によってしばしば挫折してきた。リップル社は、エックス・アール・ピー(XRP)を有価証券に分類しようとする動きを(ほぼ)撃退した。 現在、コインベース(Coinbase)は、違法な証券取引所を運営していると主張する別の訴訟を阻止できる可能性が高そうだ。フォーチュン誌は法律の専門家の言葉を引用し、ゲンスラー氏の積極的なアプローチが裏目に出る可能性があると述べた。「SECの管轄権などをめぐる訴訟は、もしそのような訴訟がSECの権限を抑制するような司法判決につながれば、ゲンスラー氏のより広範な試みを阻害する可能性がある」と、記事の著者らは書いている。
混乱を招く縄張り争い
ゲンスラー氏はCFTCを指揮し発展させたが、暗号資産に関してはその権限を制限しようとしている。ビットコインを除くほとんどのトークンは証券であると主張することで、ゲンスラー氏はこれらのトークンがどのように規制されるべきか、されるべきでないかを決定する責任をSECに負わせている。CFTCは、一部のトークンはより適切にはコモディティであるため、同機関が規制すべきであると主張している。 つまり、「コモディティ対セキュリティの議論」は暗号資産業界だけの問題ではなく、規制当局にとっても重要であり、しばしば「ゲンスラー氏の現在の組織と古巣の間の不和」につながっているとシュワルツ氏とロバーツ氏は指摘する。 CFTCのサマー・マーシンガー(Summer Mersinger)委員はフォーチュン誌の取材に対し、インサイダー取引で摘発されたコインベースの従業員のケースを挙げている。CFTCは、関係するトークンの一部がコモディティであるという理解に基づき、独自の訴訟を起こそうとした。SECも自らの管轄権を主張したため、マーシンガー氏は、どちらが管轄権を持っているのかが不明確なため、訴訟が却下されるのではないかと心配した。マーシンガー氏は、SECとCFTCの関係は現在、「かなり緊張している」と述べた。 CFTCのある職員はもっと強い表現でフォーチュン誌に語った。 「ひどい機能不全に陥った夫婦のようだ。我々の取り締まりと彼らの取り締まりの間の協力関係は基本的になくなってしまった」 |翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(Jesse Hamilton/CoinDesk)|原文:‘A Politician Masquerading as a Regulator’ – 3 Takeaways From Fortune's Gary Gensler Profile
CoinDesk Japan 編集部