借地人が勝手に「借地権譲渡」して大トラブルに発展…「借地権の相続税を払った」と主張する借地人に、地主は「そんなの関係ねー」と大激怒、はたしてその結末は?【税理士が解説】
「借地権割合」を主張するなら「相当な地代」も考慮すべき
紹介事例では、過去45年間に地主が借地人から受け取った更新料を含む地代の総額は3,550万円。そのうち固定資産税・都市計画税1,200万円を地主が負担している(45年以上前の地代台帳は残っていない)。 貨幣価値の変化もあって、地主がもらった地代の総額(45年間)と現在の借地権価格を比較してもあまり意味はないが、借地人が手にする譲渡代金は地主に支払った地代総額の2.4倍にもなる。 国税の通達では、借地権の設定に際して権利金の授受がない場合、自用地価格の6%を「相当な地代」としている。これで計算すると、路線価でも460万円(182,800円×420㎡×6%)になるが、査定した更地価格(1.43億円×6%)なら860万円だ。 これに対して地主が受け取る地代は年間92万円にすぎない。国税の通達による借地権割合を主張するなら「相当な地代」も考慮するべきだろう。 国税庁が定めた「借地権割合」によって、地主と借地人の間に巻き起った不安感や不信感そして憎悪。無用なトラブルによって、先々代から100年続いてきた良い関係がもろくも崩れ去った。
最後は不動産取引…どちらが着地を望んでいるのかで決まる
地主の要求から1年が経過し、借地人から謝罪の申し入れがあったという。 両者間で協議を重ね、地主が借地権を買い戻すことで合意した。話し合いになれば、落としどころはどちらがこの取引を望んでいるのかで決まる。買取価格は4,000万円。更地の査定価格1億4,300万円の28%で着地した。 地主は近隣の土地で同様の問題を抱えていて、是非とも裁判所での決着を望んだのだが、借地人が下りた形だ。 100年前に権利金の授受がなく、低額な地代で貸した土地。2世代下って地主に対する感謝を忘れ、商売がうまくいかずに地代負担が重くなっての行動だったのだろう。
「もらってもいない借地権料」など認められない
借地人が借地権を勝手に売却しようとした原因は、借地権割合で算出した相続税を支払ったことが原因だったと聞く。 地主は毅然とした態度で交渉にあたるべきだ。相続税を支払ったのは借地人と関与税理士の問題であって、借地人と地主との関係には影響を及ぼさない。 権利金の授受がなく「相当の地代」を支払っていない借地権利金には、キャピタル・ゲインによる地主の取り分が含まれている。借地権割合が60%ならその60%が借地権者の取り分。つまり更地価格の36%(60%×60%)を「相当な借地権割合」とすると、双方が納得できるのではないか。 それでも合意できなければ、最後は裁判所に判断を委ねるしかない。裁判所は借地権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡または転貸を必要とする事情、年間地代や更新料、その他一切の事情を考慮して、当事者間の利益の公平を図って承諾に代わる許可を与える。 もし裁判所が決めた額が不服なら、地主が裁判所の決定額で借地権を買い取ることもできる(借地権優先譲受申立)。 借地権割合による財産評価がひとり歩きしているように思えてならない。借地権設定当時に権利金の授受がなく、固定資産税などの3倍以下で貸す低廉地代の借地は相当数残っている。当初貸付から2世代下って地主との関係も薄れ、借地上の建物も朽廃してくるころだ。事例のような借地権譲渡も増加するものと思われる。 古くから貸している地主からすれば、もらってもいない借地権料をもらったとする借地権割合など認めることはできない。このようなケースなら「裁判所に決めてもらいましょう」と主張することを勧める。 元国税査察官・税理士 上田二郎
上田 二郎