WHO総会にオブザーバーでも招待されない台湾 コロナ対応の知見共有できず
新型コロナウイルス感染症への対応で国際的な評価を高めている台湾が、WHO(世界保健機関)の年次総会に招待されていません。台湾に「一つの中国」の原則を受け入れることを求める中国の意向が背景にあります。こうした影響で、WHO加盟国には台湾からの新型ウイルスに関する情報が共有されていないといいます。元外交官で平和外交研究所所長の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【表】新型コロナウイルス「これまで起きたこと」時系列で振り返る
中国の反対で2017年から参加できず
WHOの年次総会が5月18日、本部のあるスイス・ジュネーブにおいてテレビ会議方式で開かれます。今年は新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が苦しみ、米国と中国がこのウイルスの起源問題や中国の初期対応をめぐって鋭く対立している中での開催になります。 米国のトランプ米大統領は4月14日、WHOが「中国寄り」であると批判し、米国がWHOのコロナウイルス対応を検証する間、資金拠出を凍結すると発表しました。検証には60~90日かかる見込みだといわれています。米国が支払いを拒否すれば、WHOは予算総額の約15%、約8.9億ドルを失うことになります。WHOの予算は2年サイクルで組まれ、現在は2018~19年の予算が執行されています。財源は加盟国の義務的な分担金と任意の拠出金から構成されています。 台湾はWHO総会にオブザーバーとしてさえも招待されていません。以前はオブザーバーとしてWHO総会に参加していましたが、2017年から中国の反対によって参加できなくなりました。今年についても中国は台湾の参加に反対であると明言しており、総会は台湾の参加がないまま開かれることになりそうです。
SARS教訓に独自の対策、コロナ抑え込む
台湾は世界の感染症対策にとって欠かせない存在です。2002~03年に中国で発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)が近隣諸国からさらに世界各地へ拡大していきました。台湾ではSARSが原因で37人(関連死も含めると73人)が亡くなりました。その時の苦い経験から、今回の新型コロナウイルス感染症については、いち早く有効な対策を講じることができました。たとえばひっ迫が予想されたマスクなどの医療資源確保のため、薬局ごとにマスクの在庫を確認できるサイトやスマートフォンのアプリを開発。そのかいあって、当初はマスク不足の兆候が出ましたが、すぐに収まり、混乱には至りませんでした。 台湾政府は土日を含め毎日、記者会見を開き、疾病管制署と専門家、市民が情報を共有する「リスクコミュニケーション」を実施しました。これにより台湾の人々はパニックに陥らないで済んだといわれています。 また、学校対策の面でも台湾当局の対応は迅速で、日本より1か月早い2月2日の時点で一斉休校を決め、同月25日からは小中高の登校を再開しました。5月17日午後1時半時点で、台湾の感染者数は440人。死者も7人と抑え込みに成功しています(ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター集計)。 台湾が提供する関連情報は各国の感染症対策にとって貴重なものです。SARSの時も、日本から専門家チームが派遣され経験を聴取するなどしました。 新型コロナウイルス感染症についても、台湾は最新の感染状況を直接WHOに通知していますが、その情報はWHOから各国に伝えられていないのが実情です。中国が認めないからです。WHOが作成する報告では台湾関連情報は欠落しており、感染の全体像が示されていないのです。 こんな状況は即刻是正すべきです。台湾は中国の一部であるという中国の主張に反対しようという意味ではありません。世界的な感染症対策において台湾は各国にとって不可欠のプレーヤーだからです。