【名物教授訪問】青学大・原晋監督、学生の強みを引き出す「極意」 陸上以外にも応用できる「目標管理」の仕方
「キャッチコピー」はイメージしやすい
――チームや個人の目標は、学生たち自身に考えさせるのですか。 チーム目標は新メンバーになってすぐ、キャプテンや寮長などの学生スタッフが中心となって、みんなで話し合って決めています。目標は「箱根駅伝優勝」ですが、自分たちの思いを伝えるスローガン的なキャッチコピーを一緒に決めるんです。2024年は「大手町で笑おう」でした。 ――目標のほかにキャッチコピーを作るのはなぜですか。 キャッチコピーには、広がりのある言葉、イメージしやすい言葉を使います。それがあると、一人ひとり「自分が大手町で笑うためには何ができるか」と考えやすいですよね。 作戦名は私が考えます。記者会見で聞かれるので、話題になりそうな言葉を考えます。2024年は「負けてたまるか大作戦」とつけました。ずっと考えてくると、言葉がふっと降ってくるんですよ。言葉にすることが大切です。 ――全体の目標を決めたら、個人の目標を立てていくのですね。青学には「目標管理シート」があると聞きました。 1カ月ごとに個人の目標を具体的に記入して、そこに到達するためにやることを細かく記入します。これを書いて壁に貼りだすことで、一人ひとりの意欲を高めています。
目標管理シートに書くもの
①キャッチコピー 目標管理シートにはタイトルをつける。それによって周囲にも自分自身にも意思表示することになり、目標達成への意欲が高まる。 ②目標を数値化する 「練習メニュー完全消化」「5000mタイムトライアル14分30秒以内」など、できるだけ具体的に数値化し、3~5項目程度書き出す。チームの目標に合わせるのではなく、自分の今の状態を客観的に見て、実現可能な目標を設定することが大事。 ③具体的にやることを書き出す 目標の数字をクリアするためにやるべきことを、具体的に書き出していく。できるだけ細かく、すべて書き出すことが大切。
強みをどう引き出すか
――「目標管理シート」は、大学受験を控えた高校生にも応用できそうですね。 「A判定をもらう」などと大きく書き込み、模擬試験の目標点を記入するのもいいと思います。そして達成するためには、英単語をどのくらい覚えたらいいか、問題集をどこまで解けばいいか、やるべきことが見えてくるでしょう。 「目標管理シート」と同じくらい大切にしているのが、「目標管理ミーティング」です。ランダムに5~6人のグループをつくり、設定した目標や練習計画について話し合います。もちろん「目標が達成できたか」の振り返りもします。 ――受験生の場合は、親が一緒に話し合えばいいでしょうか。 そうですね。ただし、注意してほしいことがあります。親や指導者が「あれができていない」「だからダメなんだ」「こうすればよかった」とダメ出しばかりしてしまうと、子どもたちは自分で考えることをやめてしまいます。親や指導者は、強みをどう引き出してあげるかが大事なんです。答えを示さないことです。 目標管理ミーティングは、フィードバックではなく、「フィードフォワード」です。注目すべきなのは、失敗点ではなく、どうすれば目標に到達できるかという改善点です。そのためには1人を糾弾するのではなく、チームの問題として考えることが大切です。 ――受験生と親の話し合いにも応用できそうですね。 「フィードフォワード」で大切なことは、本人が自分の言葉で話すことです。話すというのは、ただ考えることより何倍もの能力が必要ですし、話すことで自分の中で腑に落ちてきます。そして人に伝えることで共感してもらえたり、さらによいアイデアをもらえたりもします。親が一方的に言い聞かせるのは避けてほしいですね。
プロフィール
原 晋(はら・すすむ)/青山学院大学地球社会共生学部教授。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。修士(スポーツ科学)(早稲田大学)。陸上競技部長距離ブロック監督。一般社団法人アスリートキャリアセンター会長。広島県三原市出身。世羅高校から中京大学に進学し、全日本インカレ5000メートルで3位入賞。卒業後、中国電力に入社し陸上部に所属するが、5年目で選手生活を終えて会社員生活を送る。2004年に青山学院大学陸上競技部の監督になり、09年に33年ぶりの箱根駅伝出場。15年に初優勝に導き、「青学旋風」を巻き起こす。
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