ラグジュアリーを知る“ブリオーニ”、人から始まるスローな服づくり
人材の育成から始まる服づくり
このように腕利きの職人が集まるアブルッツォの地の利を生かして創設されたブリオーニの工房が目指したのは、サルトのハンドメイドによるハイエンドな品質を維持しながら、ファクトリーとしての生産性を向上させること。そんなそれまでにないヴィジョンを実現すべく、ブリオーニが導入したのが細やかな分担制である。ブリオーニのレディメイドスーツは、一着完成するまでに約220工程(ジャケット約180工程、パンツ約40工程)を要する。一般的なスーツは平均約150工程といわれるため、やはり手が込んでいるのが分かる。それらの膨大な工程を職人が分担しているのだ。この工房創設以来ほぼ変わらない分担作業により、職人は担当工程に集中して練度を高められ、品質の向上とばらつきを軽減。その結果、品質を維持したまま量産性も向上させることができるのである。しかしながら、そのためにはより多くの有能な職人と、彼らの技術をまとめ上げる優れたオペレーションが必要となる。すなわち、若く優秀な職人やクリエイターを毎年輩出する仕立て学校の創設は、ブリオーニにとって必要不可欠であり、悲願でもあったといえるだろう。 そんな仕立て学校の必要性は創業者も早くから認識しており、1985年には最初の学校「スクォーラ・ディ・アルタ・サルトリア」を同じくペンネに設立。なお、現在ブリオーニのクリエイションを統括するチーフマスターテーラーを務めるアンジェロ・ペトルッチ氏は、同校の第一期卒業生である。この度ペンネの中心地でリニューアル開校した同校は、時代に則した最新のカリキュラムを導入。伝統的な手縫いの手法から現代的なマシンメイドの技術、そして採寸から型紙製作、裁断、芯据え、縫製、アイロンワークに至るまで、ひとりでいちから最高品質のイタリアンスーツを制作できる、高度かつ総合的なテクニックを年間1300時間、計2年間かけてじっくりと身に付けていく。 特筆なのは、近郊のブリオーニの工房と同じ資材を用いて学べる点だ。ブリオーニが扱うのは200’s以上のスーパーファインウールやピュアシルクなど、最高品質のファブリックばかりである。そうした最高級の生地は非常に繊細であり、取り扱いには細心の注意が必要となる。また、テーラードウェアの機能性と美しさを左右する芯地については、あらゆるオーダーやファブリックに適合するように、なんと素材配合などが異なる59種類ものキャンバス芯が用意されているという。それらひと握りの高級テーラーやラグジュアリーブランドでしか扱われないような最高品質の資材を用い、ブリオーニのマスターテーラーをはじめとする一流の講師の指導に基づく授業は、高級仕立て服やラグジュアリーファッションの世界を目指す若者たちにとっては有意義な経験となるだろう。