『虎に翼』寅子モデル・嘉子は34歳で女性裁判官に。男女の真の平等を実現するために<職場で女性は甘えない><男性が女性を甘やかさない>ことが大切と考えていたワケ
◆「人間」として見られるように 嘉子は合議の場においても物怖じせず自由に発言し、とはいえ言いたい放題なわけでは全くなく、他の裁判官の意見にもいつも丁寧に耳を傾ける平衡感覚がありました。 柔軟な思考の持ち主であった嘉子がいるだけで、裁判官室の雰囲気は明るくなり、誰もが思ったことを言いやすい空気に包まれたそうです。 嘉子は、自身の考える男女の真の平等を実現するためには、職場において女性は甘えないこと、そして男性が女性を甘やかさないことが大切だと考えていました。 人間として全力を尽くすときには、男性も女性もないのであって、むしろ「女性だから」という甘えの方が許せないものだという気持ちが、嘉子の中にはありました。 この頃の裁判所では、数少ない女性裁判官に対して、男性裁判官が優しいいたわりを見せることがしばしばありました。 しかし、そこから来る「特別扱い」こそが、かえって女性裁判官と男性裁判官とのあいだに壁を作っているところがあり、それは女性裁判官にとっても不利益であると嘉子は感じていました。 女性としてではなく、人間として見られるように。 それは、嘉子が最後まで持ち続けた強い意識でした。
◆同じ女性だからこそ、甘やかさない姿勢 当時の裁判所では、女性裁判官には感情的で決断力が足りないという「弱点」がある、という決めつけもあったようですが、周囲の同僚たちは、嘉子からはそのような「弱点」を感じてはいませんでした。 むしろ、嘉子からは、(明るい笑顔で、聡明さを押し出すというようなところはないにも関わらず)働く女性の代表という強さが滲み出ていました。 また、嘉子のいた民事第六部の判事室には久米愛や野田愛子もたびたびやってきて、「女性法曹」たちの意見交換の場にもなっていました。 嘉子は法廷においても、同じ女性だからこそ敢えて甘やかさないという姿勢を貫いていました。 例えば、若い男女の愛情のもつれから起こった事件の合議においては、嘉子は「女性ならでは」という視点からの指摘をする一方で、当事者が女性だからかばうというようなことは一切ありませんでした。 むしろ女性に対して厳しく批判的な意見を述べたりすることもよくあったようです。 ※本稿は、『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
神野潔