星空を台無しにする原因は? カナディアンロッキーのダークスカイ・ツーリズム体験
光害を排除する「ダークスカイ・ツーリズム」
「ダークツーリズム」と言う言葉をご存じだろうか。 戦争や災害の跡地など、人の死や悲惨な出来事にまつわる場所を訪ね、教訓を学びとることを目的とする旅行を意味する言葉であり、2016.03.22公開の現代ビジネス「やっかいな『ダークツーリズム』~言葉のひとり歩きが“遺産の価値”を曖昧にする」では、「元々はイギリスの研究者が用い始めた言葉」で、「暗い場所への旅」「闇を見る旅」と説明している。 【写真】足元が見えず「自分が無力になった」ように感じるナイトハイクをカナダで体験 戦跡、慰霊碑、津波や震災の被災地、事故現場、大量虐殺のあった場所などがダークツーリズムの目的地として注目される一方で、暗闇そのものを体験する「ダークスカイ・ツーリズム」なるものがある。 こちらは星空観察やナイトハイクなどダークスカイを体験する観光のことだ。 ネオンサインや街の明かりなど、星空を台無しにする「光害」を排除した「ダークスカイ推進運動」が、近年世界各地で活発化し、環境に配慮した照明のあり方が考慮されるようになってきた。 この活動の先進国として知られるカナダの、ダークスカイ保護区(星空保護区)のひとつが、カナディアンロッキーにあるジャスパー国立公園である。毎年10月に開催される「ジャスパー・ダークスカイ・フェスティバル」では、さまざまなイベントを通して、ダークスカイ・ツーリズムを体験できる。 旅とホテルをテーマにノンフィクション、小説、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆する作家山口由美さんが体験した。 以下、山口さんのご執筆でお届けする。
闇に包まれた瞬間、恐怖を感じる
「ヘッドライトは消して」 森に入る直前、ナイトハイクのガイドは、参加者の私たちに言った。 「赤いライトも消すんですか」 「そうよ」 ヘッドライトには、眩しすぎない赤色LEDの機能がついている。事前に点灯する時は赤色を使うように説明を受けていたのだが、それも使わないよう注意された。 「点灯するのは、どうしても危ないと思った時だけね」 ライトを消すと、深々とした闇に包まれた。 瞬間、恐怖を感じる。 得体の知れないものに出会うかもしれない怖さより、とりあえず、足元が見えないのが怖い。途端に自分が無力になった感じがした。あらためて、いつもどれだけ明るい環境で夜を過ごしていたかを実感する。 それでも、恐る恐る足を踏み出していくうちに、少しずつ目が慣れてきて、暮れなずむ空に残るわずかな光でも、足元の障害物が見えるようになってくる。 見つけた障害物は、声を出して後ろを歩く人たちに伝えるのが、ナイトハイクの流儀だと教わった。