突然の病で右半身が麻痺した「天才野球少年」が迎える最後の夏 あきらめなかった甲子園出場の夢、「代打の一打席でもいいから……」
驚異的な回復、そして最後の夏がやってきた
それから1年あまり経ったある日のことである。 「『お父さん、キャッチボールしよう』と言われてキャッチボールをしたら、ものすごいコントロールのいいボールが来たんですよ。投げ方は不細工でしたけど。そのうち遠投までできるようになって……。またある時には、ユニフォームを真っ黒にして帰ってきたんです。『気づいたらスライディングができるようになった』と言うじゃないですか」(清一さん) 吉岡もこう語る。 「身体がどんどん良くなっている自覚はありました。高校に入った当初は、塁間の距離もふわんとしたボールでようやく届く程度でしたが、最近では(内野と外野の)境目まで投げられるし、塁間もシュッとしたボールが行くようになりました」 そして、高校最後の夏がやってきた。 「おそらく大和がスタメンで出ることはないと思うんですけれども、最後の1打席、代打でもいいので試合に出て欲しい。小学校からここ一番で打つ大和の姿を私はずっと見てきた。もう一度その姿が見たい」(清一さん) 野崎監督もこう語る。 「『大和がこれだけやってるんだから、自分たちもここで妥協はできない』とほかの部員にも大きな影響を与えてくれました。彼はチームで野球を一番知っている。調子の悪い選手に対してアドバイスしてくれたり、うまくいかなかった選手にも声かけをしてくれたり……。どこかのタイミングで、できれば代打で打ってもらいたいなという気持ちはあります。みんな『代打だけじゃなくて、守備もしてもらって、大和と一緒にグランドでプレーしたい』と言っています。スタメンが頑張って1点でも多くとって、大和にチャンスを与えてほしいなと思います」 高尾も広島の地からエールを送る。 「これまで大和は誰よりも努力をしてきました。悔いなく頑張ってほしい」 7月2日、大和青藍は福岡大会初戦を迎える。 「目標は、チームをサポートして一つでも多く勝つことです。(髙尾)響や(西尾)海純とか、これまで僕と一緒にやってきた仲間たちも、頑張っている。それを励みに僕も一緒に頑張っていきたい」 吉岡大和は、力強く語った。