「サッカーが戦争を止めた日」世界に伝えたいクリスマスの奇跡(2)イブの美しい歌声と「200人の試合」、ドイツ兵が語った「アーセナル」への思い
■タバコと引き換えに「散髪」
そして翌朝、ドイツ軍の塹壕を見張っていたひとりの兵士が「白旗が出ている」と声を上げた。見ていると、白旗を手にしたドイツ兵が塹壕から出て、ゆっくりとこちらに歩いてくるではないか。彼は何も武器を身につけていない。 イギリス兵も、銃を残したまま、塹壕から出た。それを見た両軍の兵士たちが次々と塹壕からはい上がってきた。彼らは「無人地帯」で笑顔で向き合うと、握手をかわし、手にしたタバコやワインやチョコレートを交換した。あるイギリス兵は「記念にあなたの軍服のボタンがほしい」とねだり、ドイツ兵が2個のボタンをひきちぎって渡すと、自分の軍服からも2個をひきちぎり、交換した。 イギリス兵のなかには、見習いの理容師だった若い兵士がいた。彼は数本のタバコと引き換えにドイツ兵の散髪を引き受けた。「あまりに長くて見苦しいやつがいたからね」と、彼は仲間たちに語った。 塹壕から出た兵士たちの最大の気がかりは、「無人地帯」に放置されたままになっていた仲間の遺体だった。西部戦線では定期的に数時間の「停戦」をして互いの遺体収容作業が行われていたが、このときにもそれがまず優先された。 そのうちどこかからか、サッカーボールが現れた。おそらく、サッカー好きのイギリス兵が戦場まで携えてきたものだったのだろう。イギリス兵がボールを蹴ると、ドイツ兵たちから大歓声が起こり、たちまちボールの回りに人が集まった。サッカーは、すでにドイツでも人気競技だった。
■賞品は「1匹」の野ウサギ
イギリス軍の軍服のコートはカーキ色だった。ドイツ軍のコートはグレイだった。すぐに誰かがヘルメットを置いて一対のゴールをつくり、試合になった。そう広い場所ではない。プレーヤーは「両チーム」合わせて200人近くもいた。それでも彼らは一生懸命にプレーした。キックし、ヘディングし、転んで、点を取っても取られても、大いに笑った。兵士たちは幸せな気分でいっぱいだった。 ある場所では、「賞品」まで出た。英国兵がとらえた1匹の野ウサギだった。両チームとも「賞品」を見て目の色を変え、勝ったドイツ兵たちは大喜びだった。 「試合」に加わらなかったひとりのドイツ兵が、イギリスの下士官のところに歩み寄ってきて直立すると、ドイツなまりの英語でこう話した。 「おはようございます、サー。自分は北ロンドンのアレクサンダー・ロードに住んでおります。できることであれば、明日のウーリッジ・アーセナルとトットナムの試合を見たいと願っております」 アーセナルとトットナムは、もちろん、ロンドンのライバル同士であったが、「ウーリッジ・アーセナル」は旧名称で、この戦争が始まる直前の夏、「アーセナル」に改称されていた。
大住良之
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