「認知症」リスク、短期間で資産を減らす“負の財産ショック”で高まる 中国研究グループ発表
日本における認知症の現状は?
編集部: 日本での認知症の現状について教えてください。 田頭先生: 認知症は歳をとるほど発症しやすいと言われています。厚生労働省によると、65歳以上の認知症の日本人の数は2020年時点で約600万人と推計されています。2025年には高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になるとも予測されています。 認知症には、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で発症する「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなる「レビー小体型認知症」、スムーズに言葉が出てこない・言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状が表れる「前頭側頭型認知症」といった複数のタイプが存在します。どのタイプの認知症であるのかによって、医療的な対処法だけでなく介護者が知っておくべき接し方のポイントもそれぞれ異なります。 認知症は今後、高齢化の流れが避けられない日本にとって、まさに全社会的に知識を持ち、対策に取り組まなければならない疾患であると言えるでしょう。そのような流れを受けて日本政府も、2019年6月18日に「認知症施策推進大綱」というものを取り決めました。認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し、「認知症バリアフリー」の取組を進めていくとともに、共生の基盤の下、通いの場の拡大など、予防の取り組みを進めている状況です。
今回の研究内容への受け止めは?
編集部: 中国浙江大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。 田頭先生: 認知症の発症リスク要因といえば、一般的には食生活や運動、睡眠、余暇活動など個人の生活習慣に焦点を当てて考えられることが多いですが、今回の研究は経済状況という社会的な要因と個人の認知症発症リスクとの関連を示唆しているという点で大変意義深いと思います。 特に負の財産ショックという出来事は、例えば社会保険の仕組みが不安定であるなどの背景があります。投資を促進するような社会の風潮が後押しとなって引き起こされやすくなる側面もあり、必ずしも個人の問題だけではなく社会との関係の中で認知症という病気を捉える視座を与えてくれていると思います。 また、貧困も社会情勢によっては個人の努力不足だけでは片づけられない問題となり得ますし、貧困状態であれば栄養のある食事をとることも難しくなるでしょう。そのことも認知症の発症リスクを高める可能性があることも推察され、個人と社会の問題が非常に複雑に絡み合っていることがわかります。 今回の研究結果から、少なくとも真の意味で認知症を予防するためには、個人の予防活動のみならず、社会を構成する一人ひとりが広く社会問題にも関心を持ちながら、より適切な社会を目指して働きかけていくことが大切だと感じました。