ラーメン一杯2千円でも「待ち時間をカネで買えるなら楽」 人気店で「ファストパス」導入が増えているワケ
■専門家「客にとってラーメンの”1000円の壁”は関係ない」 山路さんは、ラーメン店がファストパスを導入する背景には、「キャンセル」に対しての弱さがあるためだという。 「ラーメン店は、他の飲食店でいう“キャンセル”、つまり“客の機会損失”に対して打つ手がありませんでした。『この店のラーメンがどうしても食べたい』という人であれば、行列ができていても並ぶのかもしれないですが、『混んでいるから別の店を探そう』という人もいるでしょう。整理券を配る人気店もありましたが、個人経営の店だと、準備やスタッフの確保などでそれも難しいです。行列を解消して離脱する客を減らし、なおかつネットの予約システムで客の機会を担保することも出来る。店側にも客側にもメリットがある、非常に面白いサービスだといえます」 とはいえ、前出の「銀座・八五」では、一番安いラーメンでも1200円(+税)がかかる。ファストパスをとってラーメンを食べるとなると、税込みでおよそ2千円。もはや高級料理の価格だ。一杯2千円のラーメンを食べる人はそれほど多くいるのだろうか。 「このファストパス自体の良いところは、客側に“ファストパスを買うか買わないかの選択権があるところ”です。よく、ラーメン界隈では価格の基準として“1000円の壁”と言われていますが、美味しいものならば千円でも2千円でも払うという客層が一定数いますし、そもそもファストパスを使う人たちは“値段”よりも”時間“や”並ぶストレス“をなくすことにお金をかける人たちです。それに対してラーメンが千円は高いと感じる人たちはその店には行かないでしょうし、ファストパスに価値を感じない人は行列に並ぶかあきらめるでしょう。つまり、今まで通りの使い方も併用されているところがポイントなのです」 双方向のメリットが保証されているなら、どこのお店でも使えばよいのではと思うが、現状では難しそうだ。 山路さんは、 「すべての飲食店が導入できるかというと、そうではありません。まず大前提として店側に一定のネットリテラシーが必要となりますし、人気店でなければ導入のメリットはありません。そしてレストランなどはすでに予約システムがありますし、カジュアルなファストフードの世界では「モバイルオーダー」が定着しつつあります。また、ラーメン店でも、券売機を使うなどの昔ながらの営業スタイルでやっているところとは、相性が悪いとも言えます」 説明し、こう続ける。 「日本の飲食業界は人手不足、コスト高、進まない価格転嫁などさまざまな課題に直面しています。このファストパスを収益の柱とすることは難しいと思いますが、料理やサービスだけではない新たな収益源のひとつとして、飲食店のビジネスモデルを変えていくことに貢献できる可能性が十分にあるサービスです」 ラーメンというカジュアルな分野でも進むDX。苦境が続く飲食業界の救世主となれるか。 (AERAdot.編集部 小山歩)
小山歩