その自由診療の「高額な検査」はお金と時間の無駄かも!結果が陽性でも認知症になるとは限らない理由【山田悠史医師】
バイオマーカーが陽性でも、アルツハイマー病になるとは限らない
そう聞くと、症状が出る前からこうした検査を受ければ、早期発見ができると思われるかもしれません。たしかにそういう側面がないわけではありません。しかし、これらのバイオマーカーが陽性であることは、必ずしも認知症を発症している、あるいは将来発症することを意味しません。 なぜなら、アルツハイマー病の有無に関わらず、アミロイドβは年齢とともにそれを持つ人が増加するからです。70歳以上の20%以上、80歳以上では30%以上にアミロイドβの蓄積が見られると報告されています(参考文献3)。しかし、その中で実際に認知症を発症するのは一部です。つまり、アミロイドβが検出されたからといって、「将来必ず認知症になる」というわけではなく、多くの人が検査で認知症リスクが高いと言われながら実際には認知症を発症しないことになります。 たとえば、認知機能の正常な60歳にアミロイドが検出された場合の生涯の認知症発症リスクは23%と推定する報告があります(参考文献4)。この数字は高いと感じるかもしれませんが、逆に言えば、検査が陽性と出ても、77%の確率で死ぬまで認知症を発症しないということです。 これは、庭に雑草が生えているからといって、すぐに庭全体が荒れ果てることにはならないのと似ています。雑草は年々少しずつ増えるかもしれませんが、適切に管理すれば庭全体の問題を起こすものにはなりません。同様に、アミロイドβの蓄積も加齢による変化の一つでもあり、それ自体が重大な問題を引き起こすとは限らないのです。
検査結果が心にもたらすもの
とはいえ、「1回血液検査を受けるぐらいなら負担も少ないしいいのではないか」と思われるかもしれません。確かに、血液検査自体は、検査としての負担は非常に小さなものです。時間もかからないでしょう。しかし、血液検査で陽性の結果が出た場合を想像してみてください。症状がなくとも「認知症リスクが高い」という結果が言い渡されるのです。多くの人が漠然とした不安を抱えながら検査を受けるのですから、その不安が一気に増幅されることは間違いありません。 確かに、リスクはアミロイドβが見られない人に比べて高いのは間違いありませんが、それが実際認知症になるかどうかを教えてくれるわけではありません。たとえば、アミロイドβが陽性でも(その検査では検出されない)タウタンパク質が脳内にない場合、その後認知症を発症するリスクはわずかに高い程度だったとする報告もあります(参考文献5)。つまり、一つの検査結果だけで将来のリスクを正確に予測することは難しいのです。しかし、結果はその後の不安を増幅するのには十分なものでしょう。