オウム真理教「地下鉄サリン事件」から29年。東京地裁への問い合わせで発覚した“裁判記録廃棄”の真相
記録廃棄されていた事実が発覚
筆者は、裁判記録を活用して研究をする過程で“スクープ”も見つけ出した。 昨今は、旧統一教会に対する宗教法人の解散命令請求が注目されている。そこで筆者は2022年11月、国内で初めて解散命令が決定された「オウム解散命令事件」の民事記録を閲覧しようと、当時審理を担当した部署に閲覧したいと問い合わせた。そうしたところ、数日後に回答があった。内容は、「全ての記録を廃棄した」と。 この事実を、Twitter(現X)でツイートしたところ、瞬く間に拡散され、報道各社が後を追って報じる事態となった。 もっとも、オウム解散命令事件の記録廃棄については、2019年に調査報道がされていたものを掘り起こした形。ただ、投稿の1か月前には、神戸新聞が「神戸連続児童殺傷事件」の少年事件記録が廃棄されていることを調査報道し、記録保存の在り方について関心事となっていた。 その後、機運の高まりから、最高裁は有識者会議を立ち上げ。2023年5月に報告書を公表した上で、「国民共有の財産を多数失わせたことについて、国民の皆様におわび申し上げる」として異例の謝罪をした。これを受け、今年1月には記録保存に関する規則を制定・施行した。だが、「利活用」についての提言はあったものの、具体的な改善には至っていないのが現実だ。
オウム事件の記録保存について
2018年8月、当時の上川陽子元法務大臣は、オウム真理教が起こした全ての事件の刑事記録について、通常の保管期間満了後も「刑事参考記録」に指定し、永久保存することを会見で発表した。「刑事参考記録」とは、刑事法制や調査研究の重要な参考資料に当たる事件の刑事記録を永久保存にする制度。昨年12月の時点で、約1200件が同制度の対象とされている。閲覧については、法務大臣は学術研究者や弁護士など、調査研究をする場合などに閲覧させることができると定められている。 会見発表の4か月前の2018年4月には、学者やジャーナリストらで作る「司法情報公開研究会」が、オウム事件の全ての刑事記録を刑事参考記録として永久保存するよう求める請願書を法務大臣へ提出していた。 同研究会が請願した理由について、共同代表のジャーナリスト江川紹子氏は、「オウム事件は、平成でもっとも大きな事件です。世界的にも注目を集めました。どのように裁かれて、どのような事実であったのか。当時を知る人たちがいなくなった後でも、後世に繋げられるようにすべきと考えました」と筆者の取材に対して語った。