神奈川の巨人、名門の韋駄天、スターの魂を継ぐ天才…真夏の甲子園で躍動する「ビッグ5」の真価
身長193㎝の大谷翔平(30)がメジャーでもシンボリックな選手となったこの時代に、日本の高校野球も「大型化」の波が押し寄せている。2年連続でセンバツの決勝に進出した報徳学園(兵庫)のエース・今朝丸(けさまる)裕喜は188㎝の高さから投げ下ろすストレートを武器に、兵庫大会決勝で明石商業を完封、報徳を6年ぶり夏の甲子園に導いた。実績と経験はライバル投手の追随を許さない。いまだ果たせていない全国制覇を遂げるべく、100周年を迎えた甲子園に帰還する。 【高校野球の季節がやってきたー!】ス、スゴイ…! 真夏の甲子園で躍動する「ビッグ5」 「自分が世代ナンバーワンでありたいと意識はしているんですけど、それはマウンドでの振る舞いで証明したいと思っています。甲子園では悔しい思いも経験している。リベンジしたいし、てっぺんを狙っていきたい」 普段から物静かな男は、虎視眈々と深紅の優勝旗を狙う。センバツの決勝で健大高崎に敗れて以降、夏の暑さ対策として徹底的な走り込みを自身に課してきた。151㎞/hの自己最速記録は、聖地で更新されるかもしれない。 「数字にはこだわっていません。むしろ自分はコントロールが持ち味だと思っています。最後なので悔いのない夏にしたい。甲子園でも完封したいです」 男子校である報徳の野球部は、143人の大所帯だ。大角健二監督(44)はエースナンバーを背負う今朝丸を「大舞台に強い選手」と評し、こう続けた。 「酷暑のなかでの決勝でしたが、冷静に、落ち着いてマウンドに上がり続けてくれた。走者を背負った場面でも、これまでなら力任せになっていたところを、打者の反応を見ながら丁寧に投げてくれた。成長したと思います」 今朝丸は中学時代、関メディベースボール学院に所属。チームメイトには京都国際の左腕・中崎琉生(るい)や東海大相模の遊撃手・才田和空(わく)、2年生スラッガーの金本貫汰らがいた。聖地で勝ち上がれば、仲間と再会することもあるだろう。 「それがものすごく楽しみなんです。とくに、東海大相模とやってみたい」 その東海大相模には″東の巨人″がいる。198㎝左腕の藤田琉生(りゅうせい)だ。バレーボール選手だった両親の下に生まれ、中学時代には湘南ボーイズの投手として日本一を経験。神奈川大会では準決勝の向上戦、決勝の横浜戦に登板して苦しみながらも粘り抜き、いずれの試合でも逆転勝利を呼び込んだ。 「自分がエースになると心に決めて入学したのですが、これまでチームを勝たせることができず、監督や仲間の涙をたくさん見てきた。情けない気分というか、自分の弱さを痛感してきました。甲子園のマウンドはまだ経験したことがない。様子見なんかしないで、初回からどんどん飛ばしていきたい」 高身長の投手は長い手足を操るのが難しく、足下のゴロ処理や牽制に不安を抱えるケースが少なくないが、藤田は器用にこなす。球速は140㎞/h台を記録し、変化球もスライダー、チェンジアップと多彩だ。規格外の長身であることの利点と欠点を訊ねた。 「フィールディングには自信があるんですけど、小柄な投手に比べたらやっぱり俊敏性では劣っていて、ファーストのカバーリングなどが遅れてしまう。でも、この身長で、しかもサウスポーで、角度のついたボールを投げられたら打者としては嫌だと思う。甲子園では自分の利点を前面に出して、得意とするストレートでどんどん勝負していきたい」 18.44m先で待ち構える打者からすれば、藤田の投球は2階から白球を投じられるような感覚に陥るのではないだろうか。藤田はバレーボールを打ち込む独自の練習法で直球の質と角度を磨いてきたという。東海大相模といえば原辰徳氏(66)の母校であり、″巨人″とのパイプが太い学校だ。もちろん、藤田もプロを見据えて2年半を過ごしてきた。 「まずは日本一。そこを目指します」 この春から低反発の新基準バットが導入されたこともあり、高校野球は投高打低の傾向が強まった。本塁打が減ったことで昨年の花巻東・佐々木麟太郎(スタンフォード大)や広陵・真鍋慧(大阪商業大)のようなスラッガーの野手よりも、俊足・巧打の野手に目が行きがちだ。 そんな新時代の申し子のような韋駄天が、大阪桐蔭にいる。大会を通して本塁打が3本しか出なかった今年のセンバツでランニングホームランを放ち、U-18侍ジャパンの代表候補ともなった右投げ左打ちの外野手・境亮陽(りょうや)である。50mを5秒8で走り、1年時には投手も務めていた強肩の持ち主だ。境は大学進学が濃厚だが、同校から千葉ロッテにドラフト1位で入団した藤原恭大(24)のような、スケールの大きい選手である。 「自分が出塁することができれば得点につながりやすい。今は打率を残すことを重視しています。将来的には高いレベルで走攻守の三拍子が揃った、隙のない選手になりたいです」 右の好打者として名を挙げたいのは、一昨年の全国覇者・仙台育英を宮城大会決勝で破るアップセットを演じた聖和学園の三浦広大だ。先頭打者として打席に入った初回に、相手エースの山口廉王に11球を投じさせる粘りを見せた。結果は内野ゴロに終わったが、その粘りが聖和の野手陣に勇気を与え、仙台育英の強力投手陣からチームで19安打を放った。 三浦は1年生の夏から主力。2年前は仙台育英に決勝で敗れた。雪辱を果たした三浦は、端整な相好を崩し、「新しい歴史を作れた」と語った。 「執念を見せられたと思います。甲子園はすごい相手がたくさんいる場所。楽しみたいです」 ◆「カナノウ旋風」再び 同じ東北の秋田にもニューヒーローが出現した。金足農業のエース右腕・吉田大輝だ。6年前の夏、カナノウ旋風を巻き起こした吉田輝星(24・オリックス)の弟である。 2年生ながら、肝っ玉の大きい球児だな、と思わせるシーンが秋田大会決勝・秋田商戦にあった。6対4で迎えた9回表のマウンドに吉田が向かうと、センターを守っていた高橋佳佑主将に目配せしながら、膝をついて居合いの動きをみせた。兄が甲子園で行っていた「侍ポーズ」だ。 その時点で点差は2点。同点、あるいは逆転されていたら、周囲から何を言われるかわからない。 「厳しい展開だったんですけど、『最後はこれ(侍ポーズ)で締めるぞ』って佳佑さんに言われていたんで、やりました」 実際にその後、1点を返され、さらに2死満塁の大ピンチに。そこを乗り切り、6年ぶりとなる夏の甲子園を決めたものの、このポーズは6年前、兄が日本高野連より注意された禁断のルーティンでもある。弟がそれを知らぬはずがない。 「はい、知ってました。甲子園でやるかどうかは……わからないです(笑)」 16安打を浴びても、そして154球を投じても、秋田商に逆転を許さなかった。 「ランナーを背負っても、気持ちを切り替えて投げられたと思います。マウンドに上がったら絶対に譲りたくない。投げる体力とか、マウンドでの気迫とかは兄に負けていないと思います」 最速は145㎞/h。スライダーやチェンジアップ、フォークなど球種も豊富だが、「もうひとつ、武器になる変化球が欲しい」と大輝は言う。 「兄さんの果たせなかった日本一という目標を達成したいと思います」 文字通り、頭ひとつ抜きん出たビッグ5が100周年という節目を迎えた甲子園球場に集う。彼らの中から新時代の覇者が生まれる可能性は高い。 『FRIDAY』2024年8月16日号より
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