観客も動植物役の実験劇、演出家・上田久美子がパリ研修を終え開催…「空間自体が作品に」
さらに来年1~2月には東京・蒲田の銭湯の宴会場を使って「寂しさにまつわる宴会」という演劇を上演する予定だ。竹中と、大衆演劇の俳優、三河家諒が出演。宴会の余興として芝居が始まるが、次第に現実との境界がなくなっていくという。「温泉の宴会場での飲み会は、みんなでワイワイやって孤独を癒やす場。人は孤独やむなしさとどう折り合いをつけるのかを考えたい」
ユニークな企画を次々に打ち出すのは、舞台に関わりのない人を劇場に呼び込みたいからだ。「日本でもそれ以外の場所でも人を巻き込む方法を今後も考えていきたい」
古巣・宝塚への思い語る
上田は今年に入ってブログや配信、講演などで考えを積極的に発信している。そこでは昨年9月、古巣の宝塚歌劇団で劇団員が急死した件にも触れている。
「(退団後も)私が公演を打って、皆さんが来てくださるのは宝塚の恩恵。今は逆風が吹いているけど、『私はもう無関係です』とはとても言えない」
亡くなった劇団員とも一緒に仕事をした。「真面目で優しい人という印象だった。そういう人がそんなことになるのだとしたら、自分たちの続けてきたことは間違っていたということ」
上田が内側で感じていたのは、創立100周年以降のビジネス至上主義化だった。「社会に資する作品を作りたい」との思いで退団を決めたが、劇団の利益重視の傾向も離れる理由の一つだったと明かす。「出演者の労働条件がタイトになったことに、演出部からも声をあげていたけれど、結局は止められなかった。後悔している」
労働条件と指導方法の改善に加え、上田が提言するのは入団年齢の改定だ。付属する宝塚音楽学校の入学年齢(15~18歳)は70年以上も変わっていない。「せめて大卒(22歳)まで入れるようにすれば精神的な成熟が期待でき、セカンドキャリアも選択肢が増える」
全員が「志」を共有することも必要だと訴える。「劇団はビジネスではなく、関西の貴重な文化を発信するという大義に立ち返ることが大切では」