観客も動植物役の実験劇、演出家・上田久美子がパリ研修を終え開催…「空間自体が作品に」
宝塚歌劇団を退団してフリーになった演出家の上田久美子が、文化庁の制度を利用してパリで約1年間の研修を終えた。帰国後は、8月に兵庫県豊岡市の城崎国際アートセンターで観客参加型作品「呼吸にまつわるトレーニングプール vol.1 オフィーリアの川」の試演を開催。その模様をリポートするとともに、現在の思いを聞いた。(小間井藍子)
「皆さんも研究員の一人として魚や微生物、水草のように過ごしてみてください」。約30人の参加者に、上田は呼びかけた。
8月14~16日に行われたのは、シェークスピアの「ハムレット」に登場するヒロイン、オフィーリアの入水場面を人間以外の視点で捉えてみるという実験的な試みだった。
参加費は無料。上演前にはダンサーの川村美紀子による呼吸のレクチャーもあった。体育館のような会場にはミレーの有名な絵画「オフィーリア」をアレンジした映像がスクリーンに投影され、木箱を舞台に飛び石のように置くことで「川」を表現していた。
参加者たちは最初、戸惑いを隠せない様子だったが、パフォーマンス開始時間になると次第にしゃがんだり、寝転がったりして“動植物たちの気持ち”を体感していた。記者も挑戦したが、装着したイヤホンから聞こえる現代音楽(miu)と竹中香子の語りが心地よく、オフィーリアを演じる川村の狂気の表現に引き込まれ、見応えがあった。
この企画が生まれたきっかけは、上田が戯曲を書き下ろし、2022年に上演した朗読劇「バイオーム」だった。「植物たちの意識の世界を人間のドラマに合わせて書こうとしたが、言語での表現に限界を感じた。もっと動きや音で表現できないかなと思った」。また、パリでの研修中に植物の哲学について書かれたエマヌエーレ・コッチャの著書の一節を基に数人の俳優たちと作り上げたパフォーマンスなども、ヒントとなった。
今回の公演の成果について、「観客もパフォーマンスを構成する一部となり、空間自体が一つの作品に見えて私自身、楽しかった。動植物の気持ちになれば自然と環境への意識も高まるはず」と手応えを語る。「参加者への説明の仕方など改善点はあるが、今後は様々な地域でも上演できたら」