能登半島地震後、増える犬や猫の「引き取り」相談 いま私たちに出来ることは
私が代表を務める非営利法人「一般社団法人東京都人と動物のきずな福祉協会」では、能登半島地震の発災後から石川県と連携協働して、被災猫を東京で譲渡する活動を行っているが、能登の被災地の復旧・復興はこれまでの災害では例を見ないほど遅れているようだ。ペットを連れている被災者をテレビのニュース映像でちらっと見かけることはあるが、被災動物については、ほとんど情報がない。 能登半島地震後、増える犬や猫の「引き取り」相談
倒壊したビル、焼け跡はそのままの状態
私と業務執行理事・古川尚美は、被災地の現状を視察するため、5月初旬、能登半島へ向かった。マツダ株式会社の親和会の動物愛護クラブ「ワンミャツダクラブ」と北陸マツダのご協力をいただき、「がんばろう 北陸」のラベルを付けた車に乗って、同クラブのメンバーの運転で出発。 金沢と能登半島を結ぶ道路「のと里山海道」の一車線が通行可能になっていると聞いていたが、能登に向かう通行可能な車線でも、あちこちが陥没していた。反対車線では、ブルドーザーなどの重機が工事の真っ最中。遠くを眺めれば、ところどころで崖崩れが起きて、山肌がむき出しになっているのが見えた。3時間ほどで輪島に到着。 観光名所として栄えた「朝市通り」では、地震直後に発生した火災で200棟以上が焼け、およそ5万平方メートルが焼失。焼け跡はそのままの状態だった。倒壊したビルに「輪島塗」の文字が目に入った。 財務省が「人口の減少する被災地への財政支出は避けたい」との立場を明確にするなどの報道を見聞きすると、復旧・復興が遅れている現状とつながる。日本でも「ペットは家族の一員」との認識が共有されているはずだが、今後、ペットと暮らす住民たちへの配慮はどこまで行き届くのだろう。犬については、狂犬病予防法に基づき全頭、保護・収容されると思うが、孤立集落に取り残された猫たちはこのまま見捨てられてしまうのではないか。
地震発災から3カ月半後にオープz
金沢方面へ戻るためには、道を迂回(うかい)しながらの走行だった。金沢市と隣接する津幡町の森林公園内に建つ「いしかわ動物愛護センター 」に到着。 いしかわ動物愛護センター「しっぽのかぞく」は、石川県が2021年に制定した「動物の愛護及び管理に関する条例」の理念である「人と動物の共生する社会の実現」を目指して、2024年からの開設・運営を予定していた。県産の材料を使っての木造平屋建て。飼い主のいない動物の保護や譲渡を進める拠点として、譲渡を希望する人が犬・猫に触れ合って相性をみるための「マッチング室」も備えられている。最大収容頭数は、犬30匹、猫70匹。「研修室」では、子どもを対象とする動物愛護教室など、イベントもいろいろ企画されていたようだが……。 はからずも地震発災から3カ月半後のオープンとなってしまった。いしかわ動物愛護センターでは、被災者が手放したペットを受け入れるのが最優先となり、北部と中部の保健福祉センター、南部小動物管理指導センターなどからも収容動物が移送され、みるみる収容動物の頭数が増えていった。 石川県健康福祉部薬事衛生課、動物愛護担当の出雲路智(いずもじ さとし)さんによれば、「発災直後の1月から3月にかけてはペットの『一時預かり』の相談が多かったが、4月から7月では、『引き取り』の相談が増えた」という。1月から7月までに県が引き取ったのは、犬15匹、猫102匹。 直後はペットと一緒に生活再建を目指していても、さまざまな事情で猫・犬との別れを選択せざるを得なくなったのか。犬の7倍の頭数の猫が引き取られているのは、去勢・不妊手術を行わず放し飼いにして多頭飼育になっていることが少なくないからだろう。 どのような猫を引き受けるのがいしかわ動物愛護センターの負担を軽減し、被災動物の救援につながるか、職員(獣医師)にたずねたところ、「人になれている元ペットや子猫はできるだけ県内で譲渡を進めたい」とのことだった。 ちなみに、全国都道府県や政令指定市では獣医師の国家資格を持つ職員が勤務しているが、小動物の臨床を行うために入庁したわけではない。公務員の獣医師は、犬や猫の治療や手術を行わないのが原則だ。いしかわ動物愛護センターでも、不妊手術をはじめとする手術や治療などを実施する設備も態勢もない。県が引き取りセンターで収容していた猫が子猫を産むという現実もある。 私たちは、次のような猫を引き受けることになった。「人になれていない成猫(シニア猫を含む)」「病気やけがで検査や治療、手術が必要な猫」「不妊手術が行われていない猫」。実際のところ、私たちが第1便から第3便で引き受けてきたのもそのような猫たちだった。東京では、複数の動物病院と連携して、猫たちを医療にかけることができる。退院後は、私たちが運営する東京シェルター・シェアリング神田神保町で社会化することも可能だ。月2回開いている「オープンシェルター保護猫譲渡会」で譲渡も進められる。 この日(5月9日)私たちは、第4便として2匹を引き取った。猫部屋のケージの中でうずくまり、口から血混じりのよだれをたらしていたシャムミックスの碧ちゃんと、人になれていないキジトラのきなこちゃんだ。 碧ちゃんは、東京に到着後、苅谷動物病院グループ、三ツ目通り病院(江東区)に入院。口腔(こうくう)内に重度の歯肉炎があるとの診断で、麻酔下で歯の処置が行われ、すべて抜歯することになった。去勢手術と臍(へそ)ヘルニアの整復手術も行われた。 退院してシェルターに入所すると、歯の痛みがなくなったからか、碧ちゃんは元気も食欲も旺盛に。人にもなれ、ゴロゴロのどを鳴らすようになって、1カ月後には新しい家族に迎えられた。きなこちゃんは、今もシェルターで過ごし、家族を募集している。 6月18日、私たちは、ボランティア1名を伴い、いしかわ動物愛護センターを再訪し、第5便として19日に8匹の被災猫を東京に連れて帰った。こちらの8匹については、5匹が新しい家族に迎えられた。残る3匹がシェルターで新しい家族を募集中だ。