連載『lit!』第112回:ミーガン・ザ・スタリオン、Headie One、42 Dugg……土地性が表れた力強いヒップホップ
Jay Worthy & Dam Funk、Common & Pete Rock……ファンク/ソウルの香り漂う2作
■Jay Worthy & Dam Funk『Magic Hour』 西海岸を拠点に活動するカナダ出身のラッパー Jay Worthyと、同じく西海岸出身のファンクプロデューサー Dam Funkのファンク趣味全開のコラボアルバム。元々、スローなソウルやファンクの音楽性の強いJay Worthyが、今回本格的にファンク/ヒップホップのアルバムを、西海岸の色を添えて、爽やかに仕上げたことは必然と言えるかもしれない。彼がLarry Juneと2年前に出したアルバム『2 P'z In A Pod』のスローな感覚も思い出すが、東海岸のアーティストとも精力的にコラボしていくJay Worthyの音楽の中では、西海岸の色が最も強いアルバムとも言えるかもしれない。ソウルフルな「Rich Today (feat. Polyester the Saint)」、ヒップホップ感覚に溢れるトラックが特徴的な「105 West (feat. Ty Dolla $ign, Channel Tres, DJ Quik)」など、爽やかなナンバーを多数収録。ヒップホップと、ソウル、ファンクの理想的な融合として、他にはないグルーヴが味わえるアルバムだ。 ■Common & Pete Rock『The Auditorium Vol.1』 CommonとPete Rockによるコラボアルバムは、ゴールデンエラのブーンバップを完璧な形でリバイバルする。今の時代にオールドスタイルを貫きながら、決して一昔前のものとしてではなく、骨格の強さを堂々と示すような仕上がりで、ヒップホップの王道を示している。ジェイムズ・ボールドウィンの名前が出てくるような、Commonによるインテリジェンスなラップと、アレサ・フランクリンのサンプリングから始まる通り、ソウル色の強いPete Rockのプロデュースの相性は抜群。ラップを際立たせながら、トラックにも遊びを加える様は、安心感すら覚えさせる。「Chi-Town Do It」における、カニエ・ウェストの「All Falls Down」使いなど、シカゴ(当然Common『Be』におけるカニエのプロデュース仕事も含め)の文脈を窺わせるのも興味深い。ソウル/R&Bやジャズの色を前面に出すメロウな前作『Beautiful Revolution Pt. 1 & 2』に引き続き、コミュニティの物語、メッセージを紡ぐCommonのラップは、相変わらずスマートな魅力を放つ。“昔に戻った”のではなく、全てが地続きであること。それを、CommonとPete Rockは自らの音楽で説得力を持たせ、示そうとしているのではないだろうか。
市川タツキ