妊娠中に脳が激しく変化し続けると判明、元に戻らない部分も 研究者自ら脳をスキャン
妊娠中や産後のうつとの関係
「妊婦の脳の変化を明らかにすることに注目した今回のような研究は、妊娠・出産に伴う精神疾患や、この時期に現れうる気づきにくい症状をよりよく理解するために、間違いなく必要です」。スペイン、グレゴリオ・マラニョン衛生研究所の神経科学者スサナ・カルモナ氏は、今回の研究には関わっていないが、このように評価している。 妊娠中や産後のうつは、出産した女性の10~20%が経験するというが、診断を受けていなくても同様の症状に悩まされたことのある女性はもっと多いと考えられる。妊娠中の女性の脳に関する研究があまりにも少ないなか、妊娠中や産後のうつを見つけるための信頼できる方法は、いまだわかっていない。 研究チームは、今後の研究で、妊娠中の灰白質と白質が通常どのようなペースで変化するかに光が当てられることを期待している。典型的な変化のパターンが確立されれば、妊娠・出産に伴ううつの兆候となる異常が特定できるようになるかもしれない。
妊娠中の女性を対象にもっと研究を
妊娠も含め、女性の健康問題に関する研究が少ないことは以前から指摘されてきた。米国立衛生研究所(NIH)が資金を出す臨床試験に女性を含めるよう義務付けられたのは、1993年のことだ。過去25年間に発表された脳画像に関する論文のうち、女性特有の健康要因を考慮したものは0.5%にも満たなかった。 そしていまだに、妊娠中の女性は多くの臨床試験から除外されている。とはいえ、妊娠している女性にはそうでない人以上に十分な注意が必要なため、臨床試験に含めるにはハードルが高すぎるという事情もある。 ジェイコブス氏の研究チームはMRIを使って脳スキャンを行ったが、MRIが安全でないのは、体のどこかに金属を入れている人だけだという。妊婦に関しては実証されたリスクがないものの、後々リスクが表面化しないとも限らないとの恐れから、MRIを使った研究から外されてしまうことが多い。 「何かと安全性を言い訳に使われがちですが、生物医科学の歴史のなかで女性の体がこれまでずっと無視されてきたのも事実です」と氏は話す。 ジェイコブス氏をはじめ多くの神経科学者は、MRIが妊婦に全く問題なく使えると考えている。そこで、妊婦を対象とした臨床試験を検討する際には、慎重になりつつも、研究で得られるかもしれない恩恵も考慮することを、ジェイコブス氏は促している。
文=Nora Bradford/訳=荒井ハンナ