【夏を彩る“二刀流”房州人・下】花火師⇔パン販売員・鈴木君枝さん(67) 夜空に大輪 観客に感動を 館山湾花火「一番の思い入れ」 館山(千葉県)
夏の夜空を彩る華やかさ。体に伝わる「ドンッ」という振動。その魅力に引き込まれ、県内各地の花火大会で花火師として汗を流す女性がいる。鈴木君枝さん(67)=館山市亀ケ原=。年間約20カ所の花火会場で、多くの観客に感動を与えている。「準備は汗をかいて大変だし、危険も伴うが、打ち上がって開いたきれいな花火を見ると何とも楽しい」と声を弾ませる。 “本業”は、週4日で勤務している、館山市内のパン店の移動販売。暑い日も寒い日も安房地域中を販売車で奔走し、待ち構えていた常連客らと会話しながらパンを販売している。
「来週はお休みしますね」。毎年、館山湾花火大会の日だけは、決まって移動販売は休みに。「花火師」というもう一つの顔を知っている常連客も多く、「暑いけど今年も頑張って」と声を掛けられるという。 本業以外の週3日は、花火師としての仕事場である君津市の花火工場へ。袋の中に火薬を詰めたり、導火線を火薬につないだりなど、花火の製作も行う。「何百個、何千個と手で火薬を袋に詰める。作業の後は、手だけじゃなく鼻の中まで真っ黒」と話す。 知人の紹介で、10年以上前から花火大会の手伝いをするように。花火を製作して、設置して、打ち上げるという工程を知るにつれ、面白さや奥深さにひかれ、7年前、還暦の時に資格を取得した。 花火大会は8月がピークだが、年間を通して花火を打ち上げている。現場では男性に交じって、火薬が入った重い筒をトラックから降ろし、決められた順番に並べて固定し、配線する。 大規模な花火大会では、打ち上げのタイミングがプログラムされた花火を配線して、コンピューターを使いながら遠隔操作で点火しているが、小規模だと、手で点火する花火も。導火線に火を付けてすぐに逃げるのが鉄則で、「以前は火を付けるのがやっとだったが、今は打ち上がって開くのを見届ける余裕ができた」と成長ぶりを語る。 館山湾花火大会は例年、朝から25人ほどで設置作業に当たり、打ち上げ後は片付けやごみ拾いをして、解散は午後11時ごろになる。長丁場だが、「地元として一年で一番思い入れのある花火大会」と気合が入る。 最近は、キャラクターなどの形を描く「型物」も増え、レインボーカラーなど色もきれいに進化しているという。「見ている人がきれいと喜んでくれれば何よりうれしい。無事花火が全て上がって、事故なく終われますように」。今年も8日の本番を心待ちにしている。 (この企画は安藤沙織が担当しました)