知覚、自律神経など遮断し痛み緩和の「硬膜外ブロック」 薬液の量や濃度の調節で実施 痛み学入門講座
神経ブロック療法は、痛みを脳に伝える役割を担っている神経の機能を遮断(ブロック)する「知覚神経ブロック」と、血圧や脈拍、体温などを調節し、かつ痛みの慢性化に関与している自律神経(そのうちの交感神経)を遮断する「交感神経ブロック」に大別される。この両者、さらには運動神経の機能をも含めて遮断するのが「硬膜外ブロック」である。 「硬膜」とは、脊髄(せきずい)を包んでいる膜のなかで一番外側に存在するものであり、背骨のなかにある脊髄を防御、固定する役目を担っている。硬膜と、その外側の靭帯(じんたい)の間に存在する空間が「硬膜外腔」であり、首の付け根(大後頭孔)から尾骶骨(びていこつ)の上部まで続いている。 硬膜外ブロックでは、この空間に針を刺し、薬液を注入する。したがって、脊髄からの神経が情報を伝達している(頭部と顔面を除く)首から、つま先までの痛みや痺(しび)れ、四肢の血流障害などで広く用いられる。 「うっそー、脊髄に注射するの?」 こう勘違いされることもあるが、脊髄に針を刺すのではありません。脊髄の外側です。 硬膜外ブロックには、1回で薬液を注入する単回法と、専用のカテーテルを挿入、体内に留置して一定の時間、注入していく持続法とがある。単回法は外来で行うことが可能であり、私は、主として局所麻酔薬に副腎皮質ステロイド薬を混和した薬液を用いている。週1回、続けて3~5回の施行を目安とする。 一方、持続法は、原則として入院を必要とする。カテーテルにディスポーザブルの注入器(風船のような容器)を取り付けることで、24時間連続しての薬液の注入が可能となる。これらにより、痛みを伝える神経の興奮が治まり、血流が増加して神経への酸素供給が活発となるのだ。 注入する薬液の量を加減することでブロックする範囲を調節(分節ブロックと呼ぶ)することができる。さらには、局所麻酔薬の濃度を変えることで神経機能の一部を残す(分離ブロックと呼ぶ)ことも可能となる。これは局所麻酔薬の濃度を上げていくにつれて交感神経、知覚神経、運動神経の順にその機能が遮断されていくことによるものだ。つまり、運動神経の機能を温存できる低濃度の局所麻酔薬を使用すれば、持続注入中であっても自由に歩き回ることができるのである。 なお、針の刺入部位に感染があったり、広範囲の椎弓(ついきゅう)切除を受けられている場合、血液を固まりにくくする抗血小板薬(パナルジン、プレタール、バイアスピリンなど)や抗凝固薬(ワルファリン)を服用されている方、糖尿病のコントロールが不十分な方などは、硬膜外ブロックが施行できないこともある。